むしろ今もって疑問視されているのは、仁徳天皇陵の被葬者が本当に仁徳天皇なのかという点である。8世紀前半に成立した『日本書紀』には「百舌鳥野陵に葬った」とあるだけだが、10世紀初頭に編纂された法令集の『延喜式』には陵墓が和泉国大鳥郡(現在の堺市)にあることと、その広さについても記されている。
百舌鳥古墳群の中でその条件にあてはまるところと言えば、考古学の世界で大仙陵古墳と呼ばれるところがもっとも適切といういわば消去法で、同地が宮内庁から仁徳天皇陵に指定されたのだった(江戸時代の元禄年間に朝廷が「仁徳天皇陵」とした見解を、宮内庁が支持している)。だが、科学的根拠が皆無で、仁徳天皇当人の実在を疑問視する声もあることから、本当の被葬者はわからないままというのが実情である。
ともあれ、仁徳天皇陵こと大山陵古墳が地上最大級の墳墓であることに変わりはない。世界遺産登録を機会に、ぜひとも多くの人に足を運んでもらいたい。最寄り駅はJR阪和線の百舌鳥駅なので、宿を取るのは大阪市内で問題はない。
宮内庁管轄下の古墳は内部の見学ができないが、緑に覆われた古墳群を周囲から眺めるだけでも訪れる価値は十分にある。
【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。著書に『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『春秋戦国の英傑たち』(双葉社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』(日本文芸社)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)、『いっきに読める史記』(PHPエディターズ・グループ)など多数。