芸能

大団円『きのう何食べた?』が教えてくれた究極の真実

ハマった人が続出(番組公式HPより)

 視聴者をポジティブに裏切った作品としては今季ナンバーワンといえるかもしれない。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

 * * *
 ネットは「シロケン」ロス一色。昨日深夜に終わった『きのう何食べた?』(テレビ東京系)。つい語りたくなる内容満載のドラマが、とうとう幕を閉じてしまいました。

 制作サイドの想定を大きく超え、このドラマは「善循環の方程式」が成り立ったという希有な事例かもしれません。その善循環とは……。

 ゲイカップルというテーマ性や配役が話題になる→多方面から注目→主役2人が力を発揮→その刺激が他の役者たちにも波及しさらに輝く→評判が上がる→話題になる……という巡りのことです。

 西島秀俊(シロさん)と内野聖陽(ケンジ)、まず2人の主役の力がいかに大きかったか。ドラマが始まった直後、当コラムでは2人の素晴らしさについて触れたのですが、それ以外にも賞賛すべき点があちこちにありました。

 例えば「ゲイ」と一口で言っても、それぞれに個性はあるはず。セクシャリティでは括れない一人一人のキャラクターが粒立ち、違いをくっきりと浮かび上がらせた演出力と役者力。まるで人物図鑑を見ているような楽しさでした。例えば……。

●磯村勇斗

 井上航・ジルベールの存在は、このドラマの中でピリっと効くコショウかワサビか。ほんわかした空気を一瞬で凍り付かせるエゴイズム。拗ねる、悪態をつく、相手を言葉で斬る。でも憎めない。たしかにこんな人っているんだよねー、周りが甘やかせすぎだねーという共感も沸く。

 愛が足りずに育ったから愛をねだる、というちょっと子供っぽいわがままゲイの役に挑み、巧みに演じきった磯村さん。カメレオン俳優の名をほしいままに、先輩俳優たちを食うような勢いを見せました。

●山本耕史

 一方で、小日向大策を演じた山本さん、こちらも何と幅の広い役者なのかと驚かされました。小日向は常識のある上品な大人。しかし年下の恋人ジルベールにベタ惚れで振り回されっぱなし。かわいい子供に手を焼くバカ親のようで、大河ドラマで活躍する山本さんとのギャップがたまらない。ドラマ好きは悶絶の演技でした。

●オープニング曲

 フラットな声、アコースティックなギターが響くフォーク調。ほっこりと懐かしい音。バンド・OAUの「帰り道」は、オープニング曲としてこのドラマに実にハマっていました。刺激的展開はなく日常のささやかな出来事を丁寧に描くということが、一発でドンピシャ伝わってきたのです。つまり、ドラマの空気感はすでにオープニングでしっかりと表現されていました。

●シロさんの母役・梶芽衣子

 母の立ち位置、心配する親心の揺れを見事に体現。「同性愛は恥ずかしいことではない」と言いつつ心の奥で十分に受け止めきれていない母。つい「あなたが娘だったらね」などと口にしてしまう。しかし、母としては息子の生き方を肯定したい。愛情もヒシヒシと伝わってきて静かに葛藤する演技は素晴らしかった。

 梶さんといえば、かつての『女囚さそりシリーズ』で台詞を喋らないカミソリのような凄みある女を演じ怖いイメージがあったのですが、今回のドラマでは無言の中に柔らかな愛を表現していました。

関連記事

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
”クマ研究の権威”である坪田敏男教授がインタビューに答えた
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン