「僕は普段、タクシーにも乗らない地下鉄派なので、東京の景色を知らないんです。例えば国道246号を多摩川方面に下る坂の先に突如玉川高島屋が現れるだけで、一々オーッて驚ける。中目黒以上にしゃらくさいニコタマを汗だくで走って冷やかした気分になったり、近所にバレないようにコソコソ家を出たり、僕の場合、長距離走者の孤独とは、空回りする自我のことだったりします(笑い)」
あいにく東京マラソンは再三抽選に落ち、未だ縁がないというが、2016年の横浜マラソンと金沢マラソン、昨年の神戸マラソンとおかやまマラソンを見事完走し、最高記録は4時間3分16秒。足腰に故障を抱える中、堂々のタイムといっていい。
「体重は走り始めてすぐ60kgに落ち着いたけど、プロテインを飲んでも筋肉はつかないし、体型は今も初老感丸出しのまま。それでも完走できたのは、生来の〈マニア癖〉が意外とランに向いていたからで、自宅から20kmで行けるルートは全部コンプリートしちゃったくらい。新企画を考えて1つ1つ潰していくのが、何より性に合っていたんです。
しかもこの手の人間って、実は多い気もするんですよ。肉体改造やタイムの面では若い奴らに敵わなくても、いろんな街を『ブラタモリ』的に走るうちに、気づいたらフルが走れちゃいました、とかね。何しろ地図と散歩が好きになったら、立派な初老の証拠なんで(笑い)」
薬物乱用の警告文をランに擬えた18章「ダメ。ゼッタイ。」が面白い。〈『やせられる』『自信がつく』『充実感がある』『スカッとする』『元気がでる』といった誘い言葉についのせられ〉〈そうして、なしではいられなくなる〉……〈怖っ。〉と。