「あの子のなかにも僕を刺す理由があったと思う。ホストをはじめて1年足らずの僕が営業成績を出せたのはやはり彼女のおかげでもあった。そういった彼女の“頑張り”に、僕が報いていなかったのかもしれません……」

 高岡容疑者とは、お互いの弁護士により連絡をとることを禁止されている。そのため彼女に現在の心境を伝えることはできないが「刺されたのが、他の人じゃなくて、俺でよかった。今後は誰に対しても同じことはしてほしくない」と思っているという。

 事件をきっかけに琉月さんの人生には、大きな変化が訪れていた。

「病院に運び込まれたあと、連絡先が分からなかったことから、警察が肉親を捜してくれたんです。それで、音信不通だった兄と姉に会うことができました。5年ぶりに会った2人は、全然変わってなくって“生きててよかった”って、言ってくれました。今後は兄姉と連絡がとれるようになったのは、すごく嬉しい」

 取材後、琉月さんに「傷を見せてもらえないか」と聞くと「写真はだめですが…」と、微笑みながら、シャツをまくりあげた。体に十文字状に走った傷は、縦は正中線にそって胸の真ん中からへそ下まで、横は下腹部を横断するように切られている。深く刺された肝臓部分は、まだ大きくへこみ、縫合のあとが赤いみみず腫れになっていた。

 明るい笑顔に反して、傷は想像以上に大きく痛々しいものだった。

◆取材・文/宇都宮直子

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