そして両親が終の棲家にと70才を過ぎてから転居したマンションのベランダも、夕涼みに絶好の場所だった。暑い日中、麦わら帽子をかぶって洗濯物をパンパン叩いて干し、夕方、陽のにおいをかぎながら洗濯物を取り込んだ後、ふたり仲よく、夕暮れの風を楽しむ姿に何度か遭遇した。
両親は太陽や風とともにある生活を楽しんでいたなぁとしみじみ思う。
それを思うと今は、本当に風情がなくなった。日中、密閉された部屋でがまんしていた母が、日の暮れを合図に戸を開けて風を感じようとしていたのも、認知症のせいばかりではないと思い至る。
でも最近は、日が暮れても暑いのだ。特にエアコン室外機がズラリと並ぶ都市の夏は厳しい。
そしてなんといっても母が高齢になった。時々夕涼みの思い出を懐かしみつつ、あの手この手で異常気象を一緒に乗り切る。それが現代の“夏の風情”の1つなのだ。
※女性セブン2019年7月25日号