「ありえない感」満載のドラマがもう一つ。石原さとみ主演『Heaven?〜ご苦楽レストラン〜』(TBS系火曜午後10時)です。「7月クールドラマ期待度ランキング」(コンフィデンス)では1位を獲得。注目度では一番手、初回視聴率も10.8%とまず二桁に乗せてきました。
その物語は……『わたし旦那をシェアしてた』に負けず劣らずのハチャメチャ設定。
「自分が心ゆくままにお酒と食事を楽しみたい」と利己的欲求を叶える目的でフレンチレストランを開店した女王様オーナー・黒須仮名子(石原さとみ)。その場所はお墓の脇、レストランの名前「ロワン・デイシー」は「この世の果て」という意味。「極楽」を「ご苦楽」と言い換え、仏レストランを仏様・お墓のレストランに翻案するあたり堂々たるコメディ宣言と受け取れます。
そして、レストラン開店のため急遽集められた従業員たちは……笑うことが苦手なウエイターの伊賀観(福士蒼汰)、元美容師見習の川合太一(志尊淳)、牛丼屋店長の堤計太郎(勝村政信)、天才シェフの小澤幸應(段田安則)、元銀行員ソムリエの山縣重臣(岸部一徳)と凸凹。彼らが女王様オーナーに対して抱くのは「諦観」です。つまり諦めの境地。もちろん仏教用語。
しかも、従業員たちの頭の上にいちいちCGで生首?を浮かび上がらせ「諦観」という文字を漂わす、という風変わりな演出。なんともユルいおふざけ感が、斬新といえば斬新。細部に小ネタ満載の作り込みも、SNSで話題になろうという作戦でしょう。
もしやるならとことん、ありえない世界を作り込んで欲しい。でも、どうしても夢からふと覚めさせられてしまう要素があって、それが気になる。既視感と言っていいのでしょうか。そう、石原さんのアレです。
過去で見た誰かと重なってしまう早口弾丸セリフ。『高嶺の花』(2018年日本テレビ系)の月島流令嬢「月島もも」なの?、あなたは。石原さんには今度こそ新境地を見せてほしい、と多くの視聴者が願っているはずです。そしてきっとできるはず。『アンナチュラル』(2018年TBS系)で見せた抑制的な演技も光っていたし。
「意志をバンバン伝えて正義をふりかざすのが強いのではなく、ちょっと誘導してみるとか、受け取ってみるとか、受け流してみるとか、あえて聞かないとか。そういう強さは私自身、憧れている部分がある」(「エキサイトレビュー」2018.2.2)と石原さん自身も話していました。
そう語るくらい自覚的で、幅のある人間を演じる可能性も秘めている石原さん。だから、これまで見たことのない新しい面を演出によって発掘し、浮かび上がらせてほしい、と願うのは私一人ではないはず。ぜひ、めくるめくドラマ世界の中に浸りたい。だから、ふと夢から醒めてしまうような「もも」の断片を散らかすのだけはどうかご勘弁を。