以来、大谷も取り組んだリハビリに励む。岩手では、軟式野球部を引退した中学3年生がその秋に、高校から扱う硬式球までの準備段階として、素材はゴムながら硬式球と同じ大きさ、重さの「Kボール」の地域代表を結成する。腰がようやく癒えた佐々木も地元の「オール気仙」の一員に加わり、Kボールの岩手大会を制し、全国大会に出場。試合を締めくくるクローザーとして、ある試合で自己最速となる141キロをマークした。

「オール気仙」の代表を務める布田貢氏(末崎中教諭)は、2011年の震災の直後、一家が大船渡に移住してきた時、佐々木と出会っている。小学6年生の息子が所属していた猪川野球クラブに当時、4年生の佐々木が入団してきたのだ。

「あの年は震災によって、新学期が始まるのが遅れたんです。私は試合の球審をやることがあって、5年生の試合に、転校してきたばかりの朗希が下級生ながら先発した。身長も飛び抜けて大きいわけではなく、球速も4年生にしては速いかなと思うぐらい。ただ、ストイックな性格は伝わってきました。練習に集中しない仲間にきちんと注意できる子でした」

 ケガと戦いながらも、大きく成長してきた佐々木と布田氏が再会したのは、「オール気仙」だ。ある時、オール気仙と、普段、布田氏が指導している末崎中学が練習試合を行ったことがあった。佐々木と対戦するにあたって、布田氏は「真っ直ぐだけを待って、1、2、3のタイミングで打て」と末崎中の選手たちに指示した。すると佐々木から5連続安打を記録。試合後、布田氏は佐々木を呼び寄せてこう告げた。

「なぜ打たれたのか、分かるか? 真っ直ぐしか投げてこないじゃないか。速いボールを活かすためにも、変化球は必要なんだぞ」

 スピードにこだわりを持つ佐々木も、「高校に進学して、投球に広がりができた」と布田氏は話す。

 高校の進学先に関して、佐々木は大きな決断を下す必要があった。中学時代の佐々木は、全国的には無名だったとはいえ、花巻東や盛岡大附属など、岩手県内の強豪私立からも声がかかっていた。とりわけ病院を紹介してもらった花巻東からは「受験日まで待つ」という最大限の評価を受けていた。鈴木氏が振り返る。

「朗希も迷っていました。最終的になぜ大船渡を選んだのか。その理由は私も聞いていません」

 プロ野球選手になる夢をかなえるのなら、佐々木の成長し続ける身体に理解があり、何より大谷という成功例を保持する花巻東が近道だったかもしれない。

 だが、佐々木は兄も通った大船渡を選んだ。「大船渡の仲間と甲子園を目指したかった」としか佐々木は話さないが、同校は志田氏、鈴木氏、布田氏ら、中学までの指導者の母校でもあった。

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン