35年前に甲子園で大旋風を巻き起こした同校を再び聖地に導くことで、恩に報いようとしているのだろう。
大船渡は7月7日、最後の練習試合に臨んだ。同じ岩手の盛岡第一を相手に、先発した佐々木は9回を完投。直球だけでなく、縦と横のスライダーに、右打者にはフォーク、左打者にはチェンジアップを巧みに使い、相手打線を力で、そして技でねじ伏せた。7回には一発を浴びたものの、その直後の1球がこの日の最速156キロを記録。わずか一球の失投が命取りになるという戒めとして、腕を強く振ったのだろう。
そして140球を投げたのは、昨秋以降、私が取材してきた限り、最多である。しかも、前日にも佐々木は70球を投げていた。
「まだ球速に耐えられる体じゃない」として、これまで球数や連投に関して、慎重に慎重を期してきた國保監督からしたら意外な起用だった。本人の意思か、監督の指示かはわからないが、間もなく開幕する岩手大会で強いられる連投を見据えての登板だろう。
令和の怪物にとって最後の夏の準備は整った。
◆取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)