ノモンハン事件の慰霊祭に参加する人たち(写真/共同通信社)
ノモンハン事件で日本軍は大敗したというのが通説だが、辻はソ連軍を打ち破ったと認識しているのだ。単なる強弁にも見えるが、近現代史について研究する国際政治学者の福井雄三・東京国際大学教授は、手記を「歴史的発見」と評価した上で、辻の主張に理解を示す。
「近年になってソ連側の資料が公開され、日本軍が圧倒されていたというのは誤りだったことが明らかになりつつある。日本軍2万5000に対し、ソ連軍は23万の大軍を投入したが、むしろソ連側の被害のほうが大きかった。
ところが日本は負けたと錯覚して外交交渉に臨んだから、ソ連の要求通りに国境線が決められてしまったのです。彼もそうした認識のもと、ソ連側は日本軍の実力を認識したから侵略を止められたのだと言っているのでしょう」
続けて、〈しからば何故に我等は敗けたか、善を善として見ると共に、悪を悪として正しく認めるものにのみ、進化と向上がある〉と、敗因分析に入っていく。
負けた原因として辻が挙げるのが、陸海軍の対立だ。
〈限られた国力を奪い合うことに陛下の陸海軍があさましき争いを各所に惹起し、従って、軍力の統一発揮を妨害し、作戦の不統一を来たしたことは万人の認むるところであった〉
どういう意味か。
「どこの国でも陸軍が主で海軍が従であるのが普通ですが、日本では日露戦争の日本海海戦でバルチック艦隊を破ったことで海軍の発言力が増大し、陸軍と同格の別の組織になって、予算も2分され、その後は対立するようになってしまいました」(福井教授)