アンクルウェイトをつけ高齢者の足取りを実感

 足の重りだけでこうなのだから、高齢化はやっぱり大変だ。イベントでは他に、白内障や緑内障の感覚がわかるゴーグルをつけたり、特殊なヘッドセットで聴覚の衰えを疑似体験したりもした。目と耳を不自由にしたままだと、次以降の体験が難航するので、足の重り以外はすぐに外したのだけれども、実際の高齢者の多くは目や耳に同様の困難を抱えている。加えて、足腰肩や膝ほかにいつも痛みを感じている高齢者も大変多い。

 身体のほうぼうがそれだけ辛いと、メンタルのほうも落ちかねない。そうならないよう、身体の衰えを自然と受け入れていくことは、上手に歳をとっていくのに重要な心の持ちようだろう。心のゆとり、柔軟な精神をいかに獲得していくかが、自分にとっての高齢化の最重要課題だと思った。

 当日、私たち(参加者は7名だった)をアテンドしてくれた「いずみ」さんは、3年前に癌を患ったことを明かした。そのとき、「人間はいつ何が起きるかわからない。だからこそ、いつまでもチャレンジして過ごしたい。自分のチャレンジは、10年後の90歳までこのアテンドの仕事を続けていくことです」と話してくれた。

 三浦雄一郎氏の目標は90歳でまたエベレスト登頂をすることだそうだが、「いずみ」さんの望みは、ささやかといえばそうである。しかしながら、老いた身体の実例として赤の他人で初対面の参加者たちの前に立ち、自分の人生体験をさらりと語るその姿は、大げさに言えばひとつの希望だと感じた。三浦雄一郎氏のようなすごい高齢者にはなれなくても、「いずみ」さんなら目指せるかもしれない。いや、「いずみ」さんのように老いを受け入れられたら、高齢者になるのも悪くないというか、ちょっとかっこいいじゃないか。そう思ったのである。

 対して、世間はまだまだアンチエイジングの大流行である。みんな加齢を恐れ、老いを人に見せないようにして生きている。若さを保つことには気を配っているが、不可逆的に進む加齢に対して正面から向き合っている人は少ない。

「ダイアログ・ウィズ・タイム」はその加齢をテーマに、気軽なエンターテイメントとしてさまざまな体験をするイベントだ。重くて暗い話として避けがちな問題を、自分事として考える機会になりえる。私は、アンチではなく、ウェルカムエイジングと言える人生を送りたい。

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