「領収書や発注書による不正は誰もがやってしまう可能性があります。真面目とか仕事ができるとかはあまり関係がなく、不正が許される環境があれば、その中で“最大限”やってしまうのが人間なのです。
こうした不正を防ぐには、『不正には断固として厳しく対処する』ことを就業規則に書いて、入社時から常に社員によく申し伝えておくこと。そして、人事部や総務部と連携してスケジュールや日報と連動させるとか、金庫の管理を厳格にするなど、不正をしたくてもできない仕組みを徹底することです」(前田氏)
「富は海水に似ている。飲めば飲むほど喉が渇く」──そう言ったのは19世紀のドイツの哲学者ショーペンハウアーだった。乾いた喉のせいで最初は飲んだ海水が甘美な味に思えても、それは知らず知らず自分を麻痺させる。だからこそ、経理というストッパーが必要になる。
ドラマでは、不正を働いた熊井には病気で入院中の幼い娘がいて、お金が必要だった。高校時代の同期である経理の田倉は、不正に薄々気づいていながら正すことができなかった。森若は、自分の行動は正しいと信じながらも、同僚とその家族の人生を狂わせてしまったと、ひとりブランコに揺られて涙する。
経理部員が同僚との間で引き裂かれて思い悩む事態になる前に、会社には不正を未然に防ぐ制度設計が必要だ。不正が簡単に見逃されるようなユルい会社であれば、社員は「正直者はバカを見る」と感じるようになり、社内の活力は失われていくばかりに違いない。
●取材・文/岸川貴文(フリーライター)