夢と現実の狭間でもがく航樹の葛藤を通じて仕事や人生の意味を問う本作では、紙の流通の実態も読み処の一つ。一般読者にはあって当然にも思える紙の確保が、仕入部の彼らには死活問題となり、確かに紙がなければ本も雑誌も出ないのだ。

 男女雇用機会均等法施行から2年目のこの年、銀栄本社には男女10名が入社し、〈星崎製紙〉を扱う仕入部三課には航樹と〈由里南(ゆりみなみ)〉が配属された。が、社内で〈ヘイゾウ〉と綽名される長谷川課長はよく勤務中に床屋に消える食えない男で、航樹はろくに教育されないまま3か月で星崎の担当に。中でも人気の高いコート紙〈スターエイジ〉を確保すべく星崎本社と掛け合い、明治創業の紙問屋・鬼越商店の泣く子も黙る仕入部長〈鬼越〉とも渡り合うなど、仕事は実地で覚えていった。

 出版社などを顧客にもつ各営業部の需要を把握し、在庫を製紙会社のモニター室に問い合わせるのが仕入部の仕事だが、スターエイジのような人気商品は常に需給が逼迫し、万が一の時は他社と在庫を融通し合うのも一つの手。航樹はモニター室の女性陣や競合卸の仕入担当とも人脈を築き、それでも毎日が綱渡りだ。

「特に重くてかさばる紙は在庫を持てないのが宿命で、僕も四国の工場を出た船が台風で遅れ、このままだと自分のせいで雑誌が出なくなるとか、今でも当時のことを夢に見るくらいです。そんな重責を新人が担う乱暴な時代ではあったけど、こっちに突き放す上司がいれば、あっちには助け船を出してくれる先輩もいた。衝突してもその衝突を糧に成長できたし、厳しさの中にもある寛容さを人を通じて感じ取れた時代でした」

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