「猫放し飼い令」により、この時代の猫は、ネズミ捕りという使命を与えられたものの、家の外と中を行き来できる自由を手に入れた。しかし…。
「時慶の日記によると、猫放し飼い令により、迷子になったり、犬に噛まれる、大八車(荷物運搬用の二輪車)にひかれるなどして、命を落とす猫が増えたとされています」(桐野さん)
『時慶記』には、よその飼い猫が迷い込んできたので保護して飼い主に返したり、反対に保護してもらい、届けてもらったなどといったやり取りが頻繁に書かれている。近隣の公家同士で互いの猫を保護し合い、猫を守っていた様子がうかがえる。
しかし、時には完全に姿をくらますこともあった。慶長9(1604)年9月26日の『時慶記』には、その時の様子がこう記されている。
《猫が昨日からいなくなったが、今日戻ってきた。般若心経を3巻、五大尊(五大明王)の修法を念じたところ、不思議にも帰ってきた(ので安心した)》
飼い猫の安否を案じて加持祈祷を行ったというのだ。その甲斐もあり無事に戻ってきたようだが、時慶の飼い猫は、その後もたびたび行方不明となっている。そのたびに愛猫を心配し、落ち着かない日々を過ごしていたようだ。
今も昔も、愛猫を想う飼い主の気持ちは変わらないことがわかるほほえましいエピソードだ。
イラスト/尾代ゆう子
※女性セブン2019年9月19日号