犯罪をする側はどんな動機で、いかなる訓練を受け、完成度の高い「劇場型詐欺」をやりとげるのか。詐欺犯には詐欺犯なりの「理由」「工夫」「苦労」「達成感」がある。一方の被害者には被害者なりの「家族を思う気持ち」「親の愛」「孤独」「絶望」がある。そうした複数の要素が絡み合った結果の悲劇として「特殊詐欺」が生まれてくる、ということが、ドラマを通して見えてきます。
昨今の特殊詐欺の内実はこうも時代性が反映されていて複雑なのか、と驚く人も多いはず。報道以上に、ドラマという形式が効果的に伝えることができるテーマかもしれません。
と、リアリティに溢れる作品ですが一つだけ「ファンタジーな点」を挙げるとすれば、刑事・今宮夏蓮の存在でしょう。演じている木村文乃さんがあまりに美しく華奢すぎてバイクをころがす肉体派熱血刑事には、なかなか見えてこない。その分、思い切って体当たり演技をしていて気迫で刑事になりきろうとしている。違和感を乗り越えようという格闘は好印象です。それも含めてドラマの一つの見所とも言えるでしょう。
今後の展開は老人相手の詐欺のみならずバイオベンチャー、仮想通貨、投資詐欺等々、さまざまな現代的要素が絡んできそうです。次々に発生する新たな事件を視聴者が立体的に学べて、犯罪予防の教育にさえなりうる新手のドラマ。現実の「複雑さ」は決してマイナスにはならず、プラスに作用するでしょう。
「スマホに目を向ける一回分を人に目を向ける行為に変えていきたい。そんな思いでこのドラマを演出しました」と演出担当・西谷真一氏は語っています。その言葉が印象的です。