「そもそも日本人には言葉を大切にする国民性がある」と神永さんは言う。
「辞典の原型は平安時代から存在します。今あるような近代国語辞典のはしりは、国語学者の大槻文彦さんが明治時代に編纂した『言海』。その頃、難しい漢語だけを並べた辞典も登場しています。
大正時代になると、新語辞典、隠語辞典なども作られました。前者は、現代における『イミダス』のように、新しい言葉がわからない人向けの辞典です。後者は、泥棒やテキ屋が使っている言葉を集めたもので、編纂者は当時の警察や警察OB。捕まえた人がどういう輩なのか把握するために作られたようです」(神永さん)
意外にも、時代に合わせて脈々と続いてきた個性派辞典の歴史。現代ではどのようなものが売れているのだろう。
「売れ筋商品に共通する特徴は“薄い&安い”です。その中でも、もともと表現者向けの『ことば選び実用辞典』は幅広いお客様にうけています。方言の辞典も人気で、特に関西弁とアイヌ語の売れ行きがいいです。また、今年発売されたばかりのエッジの効いた『妄想国語辞典』(扶桑社)は、一時品切れになるほど爆発的に売れました」(米山さん)
『妄想~』では《[極めて遺憾]を【意味】なんの解決にもなっていないこと》など、世相を反映した皮肉たっぷりの語釈が躍る。
また、『美しい日本語の辞典』(小学館)は発売から13年たつが、現在も根強い人気があるという。そこには「星霜」や「顔に紅葉を散らす」など、味わい深い日本語が並ぶほか、朽葉色や鴇色など、日本独自の色彩見本帳、雨、風、雲、雪、空といった自然現象の表現がまとめられており、評価が高い。
米山さんの一押しは『トラウマ類語辞典』(フィルムアート社)。