だが、想定外を想像するのは実は難しい。人間は、経験してきたこと、見聞きしたことを基準に物事を推察する傾向があるからだ。そのため、一旦想定が出来上がってしまうと、その範囲でしかリスクを捉え、考えることができなくなる。想定の範囲内でしか事態を認識できず、想定の限界ともいえる「想定の壁」が存在するのだ。
東京電力の担当者が「経験したことのない規模で倒木や設備損壊が発生した」と会見で釈明したように、経験していない事態が起ころうとしているのに、彼らはそれを想定していなかった。想定の壁を超えることができなかったのだ。「想定以上の台風」「全部想定通りにはいかない。自然とは予測がつかないんです」と述べた森田県知事もこの壁を越えられなかった一人だ。
想定外は復旧作業でも起きていたと思われる。多くの木々がなぎ倒され、屋根が吹っ飛び、それを撤去してからでなければ電線の工事ができず、現場にも行けない。電柱が何本も根元から折れ、送電線の鉄塔が倒壊した。その道の専門家のはずの東京電力は、復旧見込みを再三遅らせた。経験したことのない被害を前に、復旧時に起こりえる想定外を想像しなかったのだろう。
同じことは台風翌日、鉄道の計画運休を発表していたJRにも言える。運行再開が発表より遅れに遅れ、暑い日中、主要な駅では駅の外まで延々と再開を待つ人の列が伸びていた。だが、想定の壁を越えられないのは、企業ばかりではない。「こんなことが起きるのか」、「ここまで被害が広がるとは」と驚いた自分自身にも当てはまる。
地球温暖化の影響か、気候変動による自然災害が後を絶たない今の日本では、いつどこで、何が起きるかわからない。自然災害は想定の壁をなんなく越えてくる。起こるかもしれないあらゆる可能性を予測する想像力を働かせるしかない。