前述の通り、Aさんが購入したアルゼンチン対フランスのプレミアムシートは8万円で、通常のカテゴリーAの3万円とは5万円の差額となった。
プレミアムシートを購入すると特典として、「特製弁当」「シートクッション」「雨天ポンチョ」「マッチプログラム」などが入った「VIPサポーターバック」が付いてくる。言わば観戦の“お土産”だが、この内容にもAさんは不満顔だ。
「いずれも非売品とのことですが、可もなく不可もないグッズとの印象です。試合当日のフード売り場は長蛇の列だったので特製弁当を重宝しましたが、その後、大会組織委員会がそれまで禁止していた会場への食べ物の持ち込みを許可したので、“VIP弁当”の優位性が消えました(苦笑)」(Aさん)
なかでもAさんが困惑したのは「ラグビーワールドカップオリジナル記念品」だ。
「どんなお宝グッズがもらえるのかと胸が躍りましたが、『VIPサポーターバック』に入っていたのは、『プラスティック製の水筒』でした。あまりにも普通の品だったので、最初は記念品だと気づかなかったほどです。それでも他の人からすれば貴重品になるかもと家に帰って妻に見せたところ、『何これ、100均の商品みたいじゃん』と鼻で笑われてショックを受けました……」(Aさん)
ただしグッズについては大満足とはいかないものの、とくに目くじらを立てるつもりはないとAさんは言う。やはり納得がいかないのは、割り振られた座席のようだ。
一般的にスポーツ観戦で最も良い席とされるのはメインスタンドの中央となる。Aさんが何度も秩父宮で観戦したスーパーラグビー(*注)でも「プレミアムシート」はメインスタンド中央の限定されたエリアだった。
【*注:スーパーラグビー/南半球の国々を主体とする全15チームの国際プロリーグ】
このエリアはグランドを隅々まで見渡せるだけでなく、国際試合の前に選手がメインスタンドを向いて整列した後、国歌を斉唱する際の感極まった表情を正面から見ることができる。Aさんがプレミアムシートの購入に踏み切ったのも、国歌斉唱時の身が震えるほどの感動を味わうことが大きな目的だった。
「ところがバックスタンドでは選手の背中が見えるだけで、持参した双眼鏡を使う機会もありませんでした。しかもバックスタンドの中央ならまだしも端のほうの席だったので、試合中は逆側のバックライン際の攻防がよく見えなかった。残念ながらラグビー観戦に慣れたものとしては、今回のプレミアムシートが『最上級カテゴリーの特別な席』とは思えませんでした」(Aさん)