「杉さんには随分よくしてもらいました。ちょっと気難しいと言われている杉さんが、僕には優しかったんです。
たしかに、杉さんは歯に衣着せぬ方です。でも、正論なんですよ。たとえば、敵役のゲスト主役が殺陣ができない人だったことがありました。杉さんは不機嫌になって『信人、殺陣できない奴が主役なんて引き受けるのかよ』なんて言う。本人に聞こえているから僕はしどろもどろだったんですが、筋は通っています。
ご自分の番組であるわけですから、それだけ作品として凄く大事になさっているんですよ。一本一本に、それは神経を使っていました。
とにかくあの殺陣は凄かったですね。相手を斬ったと思ったら、もう次には反対側を向いている。それが速いんですよ。
それから障子やふすまをバンバン倒しながら次の部屋へ次の部屋へと行く。そして止めどなく敵が来る。障子の向こうから刀が飛び出して来て、その刀ごと相手を引き倒すとか。それを三分ずっと続けるんです。
本当に刺されるんじゃないか、というような真剣勝負ですよね。しかも、その殺陣を一瞬で覚えてしまう。天才だと思いました。
杉さんは殺陣だけでも観る人を魅了します。ですから、僕は何もしなくてもいい。ただ下っ引きを一生懸命やればいいという感じで、何かサポートするとか、助演とか、そういうことはいらないんです」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
■撮影/五十嵐美弥
※週刊ポスト2019年10月18・25日号