共演する吉岡里帆との1枚
50代になると、岩松の仕事の質と量はさらに変化していく。劇作家、演出家に加え、それまではさほどでもなかった役者としての仕事が急激に増え出すのだ。剽軽さも重厚さも自在に表現する岩松には、ありとあらゆる役が降ってきた。同時に知名度も急速に上がっていく。しかし岩松は、自身のスタイルをこう規定する。
「仕事はなんですか、と訊かれたら、やっぱり劇作家と答えるんです。なぜかと言ったら、それがいちばん自分がエネルギーを注いでいるものだから。自分の表現の形としては、最も幅と深みを与えられるものだから。誰も助けてくれないし、人と喋らない日が何日も続くような仕事ですけどね。でも、それとバランスをとるように、役者の仕事をやると、自分としては非常にいいんですね。役者は対人関係で動いていくし、作家とは使う神経が違うので」
役者としての実力は、是枝裕和、園子温、三池崇史、宮藤官九郎らそうそうたる映画監督に起用されていることからもわかる。2013年には、61歳にして『ペコロスの母に会いに行く』(森﨑東監督)で映画初主演。老いた認知症の母を看る禿頭の息子を好演し、高い評価を受けた。
岩松がこれまで戯曲の大きなテーマとしてきたのは、「日常的な生活の中にある人間の問題を掘り下げること」だ。家庭や夫婦を扱った作品も少なくない。