「喜劇とかあまりジャンルを区別したくないんですけど、喜劇にはあまり悪い人が出てこない。たとえ犯罪者であっても。でも、僕が戯曲を書くときは、日常生活の中で、普通に振る舞っている人にもいかに悪意があるかというのを探ろうとする。飯を食っているだけで悪意がある、みたいなシーンを面白がったりするわけです」
岩松が描くのは、人間が抱く善意、悪意、偽善性といった感情や関係性だ。細やかな言葉のやりとりや動きから、人間の本質を浮き彫りにする。
劇作家、役者に加えもうひとつの顔である演出家を引き合いに岩松はこう言った。
「世の中、どれだけウソがまかり通っているか、人は何で動かされているのか、人のいかさまぶりがいかほどか、といった仕組みがわかっているのが演出家。そういう意味で自分はそれに近づいてきている気がするし、もっとちゃんとした演出家になりたいという願望も強いんです」
【PROFILE】いわまつ・りょう/1952年生まれ、長崎県出身。劇団「自由劇場」「東京乾電池」を経て、劇作家・演出家・俳優と多岐にわたる才能で活躍。1989年に『蒲団と達磨』で岸田國士戯曲賞、2018年に『薄い桃色のかたまり』で鶴屋南北戯曲賞を受賞。
●撮影/矢西誠二 取材・文/一志治夫
※週刊ポスト2019年11月1日号