『殺人の品格』では、22人の処遇をめぐり、青瓦台内で交わされたという生々しいやり取りが描かれている。
〈盧武鉉「彼らを北に送ったら殺されるのではないか」
文在寅「22人の脱北は韓国政府にとって負担になる。南北関係を良くするために、それは甘受しなければいけない」〉
左派政権の奥の院に切り込んだ同作だが、前述のように韓国内では“発禁本”として封印されてしまった。李氏が言う。
「脱北者を北に追い返すという冷酷な決断を下したのが、当時大統領秘書室長の文在寅だった。小説で書いた文在寅の言動は、政府要職にいた人物から聞いた話であり、限りなく真実に近いやり取りです。この小説は文在寅の正体を広く知ってもらうために執筆しました。しかし、10社以上の出版社から『本を出版すると政府から制裁、弾圧を受ける』と言われ、刊行を断わられてしまいました」
◆「金正恩に擦り寄るだけ」
李氏は北朝鮮で40年近く生活していた中で、人権を抑圧する政治体制に強い疑問を持った。多くの脱北者同様に“希望”を求めて韓国に渡ったものの、2017年に誕生した文政権を見ていま、絶望を覚えているという。
「文在寅の対北政策は、実現性のない絵空事を並べたものばかりです。南北融和というだけの空疎な考えだけで北朝鮮側に民主化や人権改善を求めるでもなく、ただ金正恩に擦り寄るだけなのです」
国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチは「北朝鮮は反国家事犯の犯人とされた人物、子供を含むその家族を収容所に送る。警備兵は収監者に性暴力、殴打、拷問を加える。餓死、脊椎が曲がる強制労働、公開処刑が日常化している」(2016年北朝鮮人権報告書)と報告している。北朝鮮の金正恩委員長が、親族ですら処刑、暗殺した非情な独裁者であることは国際社会の常識である。
そうした国に、文在寅氏は笑顔で手を差し伸べている。