作家の李朱星氏

 2作目である『紫色の湖』は、韓国民主化の原点ともいえる光州事件(※)を題材とした作品だ。李氏は光州事件と北朝鮮の関連を小説で描き、同書は約1万部という韓国では異例のヒット作となった。が、光州事件の英雄である金大中元大統領を信奉する韓国左派陣営からは、不買運動や刑事告訴を起こされるなど激しいバッシングを受けた。彼らが現在、文政権を支える勢力となっている。

【※注/朴正煕暗殺後の1980年5月、民主化運動を抑えるために軍を掌握した全斗煥が運動を指導していた金大中らを連行。それに対して金大中らの支持基盤である南西部の光州市で戒厳令撤廃と金大中釈放を求める大規模なデモは激化し、軍の鎮圧によって多数が死亡した】

「作家として韓国で一定の評価を得ながら、現在、私の作品は出版すらままならない状況にあります。特に新しい小説では、文在寅の“ある過去”に焦点を当てたことを、出版社から問題視されたのです」(同前)

◆青瓦台での生々しいやり取り

 李氏の最新作である『殺人の品格 宿命の沼』は、実際に起きた「脱北者強制送還事件」を題材としている。

 時は2008年の盧武鉉政権まで遡る。盧政権末期に当たるこの時期、文在寅氏は大統領秘書室長の職にあり、「盧武鉉の影法師」という異名を持つ実力者と評されていた。

 事件が起きたのは2月8日早朝だった。西海(黄海)にある延坪島付近をゴムボートで漂流していた北朝鮮住民22人が、韓国海軍に救助された。彼らは15~17歳の未成年3人を含む、親子、夫婦、叔父などのグループで、水産事業所や共同農場で働いていたとされる。

 韓国政府は救出された北朝鮮住民を、その日に板門店を通じて北朝鮮に送還する。国情院は後に「彼らはカキ漁中に遭難したもので、脱北者ではない」と明かした。

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