スポーツ

W杯日本の活躍に、今は亡きミスター・ラグビーの影が見えた

日本ラグビーの礎について語った(写真/共同通信社)

 史上初のW杯8強を成し遂げたラグビー日本代表。惜しくも敗れた南アフリカ戦当日は、奇しくも3年前に53歳で他界した元日本代表・平尾誠二氏の命日でもあった。高校、大学、社会人を通じて平尾氏とともに活躍した大八木淳史氏は、「平尾が築いた礎があって、今の日本ラグビーがある」と振り返る。

 大八木氏と平尾氏の出会いは高校時代に遡る。伏見工業高校の1年後輩として平尾氏が入学してきて、全国大会に出場する。その後、2人は同志社大へ進学。史上初の大学選手権3連覇を果たす。卒業後は神戸製鋼に入社し、ここでも2人は日本選手権7連覇(1989~1995年)の中心メンバーとして活躍した。

「連覇が始まる前の1988年、神戸製鋼では林(敏之・59)さんの次(のキャプテン)はボクと言われたんですが、平尾のほうが適任だと思ったのでキャプテンになってもらった。その代わり、要所要所で腹を割って話をしました。

 キャプテンになった平尾は“80分間の集中力”“ボールを生かし続ける”ことを方針に掲げましたが、なかなか軌道に乗らなかった。平尾のリーダーシップに疑問を投げかけるような報道もあった。

 悩んだ平尾がボクに“難しいことを要求し過ぎかな”と相談してきたことがある。ボクは“チームの不協和音は任せておけ、おまえは勇気と自信を持ってやれ。おまえのためならナンバー2に徹する”と勇気づけた。当時の平尾はアゴひげを生やしていたので、“それはオレのトレードマークや。剃ってくれんか”とジョーク半分で言った。そんな会話で吹っ切れたのか、平尾はリーダーシップを持ってやり始めた。

 チームが軌道に乗ってからも、平尾はアゴひげを剃り続けていましたが、ある日、ボクがチームのみんなの前で“平尾、やっぱりひげがないと間抜けに見える。鼻の下(のひげ)はええんちゃうか”と言ったことがあるんです。それから、あのトレードマークのスタイルになったんです。真面目に人の話を聞く男でした(笑い)」

 その後、平尾氏は1987年、史上最年少の34歳で日本代表監督に就任する。

「その話を聞いたとき、ボクは“絶対それがいい。オレは底辺でラグビーを日本で広げてやる”と普及育成をやった。

 平尾と目指したラグビーは“やって楽しい”のではなく、“見て楽しいラグビー”だった。それは、日本にラグビーの面白さを浸透させたいという考えがあってのこと。スクラムを捨てる代わりに、フィールドプレーを磨いた。今の日本代表はスクラムの強さや選手個々のレベルアップも加わっていますが、フロントロー(フォワードの第一列)がラインに参加してパスを回すなど15人が縦横無尽にプレーをする様子は、平尾が神戸製鋼のラグビーで追い求めた姿なんです」

 ミスター・ラグビーと呼ばれた平尾氏。そうした歴史が、今回のW杯での日本代表の活躍の礎になったともいえよう。

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン