ツイッターや5ちゃんねる(かつての2ちゃんねる)などの運営が開示請求に応じるまでには手間も時間もかかるもの。だったら原田氏のように、住所特定が容易なデマ拡散者から賠償請求や訴状の送付をするのは至極普通の判断である。
2011年の滋賀県大津市のいじめ自殺事件で、無関係の女性を加害生徒の母親とブログに書き、写真まで掲載したデヴィ夫人は女性から訴えられ、165万円の支払いを命じられた。この時も、「ネット探偵」が加害生徒の父親とされる男性とたまたま一緒に撮影された写真を基にこの女性を「母親」と断定。これにデヴィ夫人が釣られる形となった。
今回のデマに巻き込まれた女性の弁護士は、今後特定できた人間に順次責任を追及していく構えのようだが、実名の書き込み者は証拠を取られていることだろう。ビクビクしながら待つしかない。
今回原田氏は、余計な義憤など持たなければ良かったのである。ネット上の「犯人特定」ほどあやふやなものはない。根拠薄弱ながら勝手に断定した匿名の人間が垂らした壮大な釣り針にひっかかり賠償金を要求されたうえに職を失うなんてバカそのもの。あおり運転を撲滅したい気持ちは分かるが、「ガラケー女」は別にあおり運転をしていないという点でもピントがズレているのである。
●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など
※週刊ポスト2019年11月29日号