つい最近、筆者がソウル郊外の京畿道一帯を車で走っていたとき、すぐ前を走る自家用車のリアウインドウには「ノー・ジャパン運動」のステッカーが貼られていた。また、ソウル市内のとある在来市場(市内各所の裏通りにある庶民の台所的市場)を訪れたときには、路面に「日本のものは買いません」とペンキで大書してあるのを見た。
ソウル市内といえば、今でも日本料理店は大人気で、遠目には日本ボイコットなんてどこ吹く風という活況ぶりなのだが、近づいてみると店頭や店内には「当店では日本の食材は一切使用しておりません」と(韓国語のみで)書かれた張り紙が貼ってある。その張り紙をスマホのカメラで撮ろうとすると、店員からは「止めてください」と言われる始末だ。
韓国の巷では、23日午前0時でのGSOMIA失効期限を目前に控えても、日本ボイコットは堅調である。去る17日には大韓航空のソウル-小松便が1か月半ぶりに復活したが、その他の路線の再開予定は限定的だ。筆者が務安郡の集落を訪ねた際、立ち寄った食堂で現地の人に話を聞いたところ、集落にほぼ隣接する務安国際空港から日本への定期便は、かつて成田や関空をはじめ九州各地に飛んでいたものの、現在はすべて運休しているという。韓国の大都市以外から日本に行く手段は、まだ全く回復していないに等しいわけで、韓国社会の根強い日本敬遠意識を物語っているように感じた。
そもそも一連の日本ボイコットは、日本政府が安全保障上の理由により、韓国向け半導体素材の一部について輸出管理の運用を見直したことに対する、一般市民から始まった経済報復運動と言えるものだ。そうした世論に韓国政府が便乗して、「半導体素材の国内生産化」を進めることで急場を乗り切ろうと、文在寅大統領自らが音頭を取っている。
15日には米国のエスパー国防長官が韓国を訪れ、韓国政府要人らに対してGSOMIAの重要性を説き、これを維持するように求めた。だが、文在寅大統領は「安全保障上信頼できないという理由で輸出規制を行っている日本と、軍事的に敏感な協定を結ぶのは難しい」と、難色を示している。そしてGSOMIA維持の条件として、「日本の輸出規制の撤廃」を挙げている。
文大統領が米国の説得にも応じない姿を見せているのは、文政権が韓国の巷に蔓延した嫌日運動に支えられているからである。日本が輸出管理の運用について現状を維持しているにもかかわらずGSOMIA維持を宣言してしまうと、韓国政府としては「日本の輸出規制」を認めたことになり、それは嫌日運動を否定してしまうことになる。