国も法も倫理も悉く瓦解する中、業務の〈正当性〉に則ったのがバログたちだ。

「言い換えれば建前です。戦時下の当時ですら建前が機能したことでかろうじて節度が守られた面はあるし、建前が本音に取って代わられでもしたら、国も人もグズグズになりますから。

 その建前が最近崩れつつあるのが私は凄く心配です。メディアも国家の準機関として存在する以上、差別や偏見を煽る真似は絶対してはいけないと、ポストさんには言いたいです。たとえ建前でも遵守してこそ守られるものもあるというのは、それこそ黄金列車の歴史が証明していることですし」

 道徳でも正義感でもなく、お役所体質を武器にお宝を守る男たちの闘いに見入ってしまう不思議な小説だ。

【プロフィール】さとう・あき/1962年新潟県生まれ。1991年『バルタザールの遍歴』で第3回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。2003年『天使』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、2008年『ミノタウロス』で第29回吉川英治文学新人賞など、ジャンルや国境を軽々と越えた物語群で読者を魅了する博覧強記の人。音楽にも精通する。「いずれはヨーロッパのどこか、物価がなるべく安い国に引っ越したいんです。人権が意地でも保障される国にしか住みたくないので」。165cm、A型。

◆構成/橋本紀子 撮影/三島正

※週刊ポスト2019年11月29日号

黄金列車

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