『まだ結婚できない男』で阿部演じる桑野はポロシャツを愛用
前作の時は社会通念として、まだ結婚が当たり前だった。だからこそ「結婚できない」ことは「懸念すべき、解決すべき問題」になっていたのです。しかし今や、結婚しない生き方も一つの選択肢と考えられ多様な生き方の中の一つと捉えられるようになり、前ほどネガティブではない。ここが決定的に違う点です。
ドラマのタイトルは「まだ結婚できない男」。「結婚」が大きなテーマであることには変わりなく、だからこそ桑野がどんな言動を見せるのかが見所でした。もし、前回のようなセリフを桑野が吐けば、たちまちモラハラ、セクハラと指摘されてしまう今。「ハラスメント」に敏感な社会の中でどう立ち回るのか。ハラスメントを恐れて桑野という人物から毒を抜いてしまえば、ただの「変人」でしかない。桑野の独特な個性を維持するためには、毒を和らげるわけにはいかないというジレンマ。
結論から言えば、桑野のイヤミは生きていた。皮肉な変人ぶりは変わることなく、むしろ「ますます完成度が高くなった」「偏屈さに磨きがかかった」という評価を多く耳にします。
これはすごいことです。阿部寛の持ちネタとしての「桑野」という芸風がしっかりと確立し盤石であり、何よりも時の経過に負けず継承可能とわかった──この点がまさに収穫と言えるのではないでしょうか。
今回もう一つ、際だったテーマがありました。「人生100年」。お一人様として長い今後をどう生きていくのか。結婚だけが幸せなゴールなのか。そうしたリアルな問いかけが、ドラマの中からじわりと響いてきてこちらも話題に。前回には見られなかった独自のテイストであり、まさにドラマが「社会を映す鏡」であることの証しと言えるでしょう。
日常は限りなく続いていく。淡々と日常を描写する。そんな作品だからこそ、桑野の老いと併走する形で「まだまだ結婚できない男」「それでも結婚できない男」「やっぱり結婚できない男」と、今後も延々と続いていって欲しい──たとえ桑野が結婚したくても。シーズン化を願う視聴者、私だけではないはずです。