大相撲の知識と興行の普及に貢献した協会理事・秀ノ山こと元関脇・笠置山の名を久しぶりに思い出したのも嬉しい。笠置山こそ、戦前相撲の生んだ最大のインテリ力士であった。早稲田大学専門部政治経済科を出ながら、努力家で相撲もめっぽう強く、講演や談話をさせたら天下一品、随筆から小説まで文章もたつ。相撲には「自由と個性の重視」を発揮してほしいと本質をつかんだ発言をする。
他方、外掛けをかけられてケガをするのは「鍛錬の順序が悪い」からだというように、ケガの絶えない現代力士にも聴かせたい言葉が並んでいる。相撲を小さくしないで欲しいという秀ノ山の信念こそ、この本の願いでもないだろうか。
※週刊ポスト2020年1月3・10日号