高齢者の生活を支えるため、横浜市は敬老パスを生活において必要不可欠なものとしてきた。その認識は現在も変わっていない。横浜市が見誤ったのは、制度導入当初に試算した高齢者の利用回数が時代とともに大きく変わったことだった。先の担当者が続ける。
「当初、敬老パスでの利用は一人あたり月15回を想定していました。しかし、今年の調査では一人あたり月20~25回ぐらい利用されていることがわかりました。この利用実態で考えると、事業予算規模は年間で約185億円になります。横浜市が交通事業者に交付している助成金は年間で約120億円です。利用回数が増えると、その差額分だけ交通事業者が負担しなければなりません。だからと言って、今後は税収が細るわけですから、助成金の増額は難しい。そうした実情を踏まえ、敬老パスの制度設計を再検討しているのです」(同)
高齢者の利用回数が増えるほど、交通事業者がその分の赤字を飲む。その赤字が鉄道・バス事業者の経営を蝕み、鉄道・バスの路線や便数の維持は難しくなる。鉄道・バスの路線が廃止もしくは減便することになれば、それは市民生活にも影響を及ぼす。持続可能な公共交通を維持するためにも、制度の見直しは不可避だろう。
新たな制度設計案には、1:敬老パスの値上げ 2:敬老パス所持者に一乗車あたり50円~100円といった割引運賃を払ってもらう 3:利用回数制限を設ける などが検討されている。具体的なことが決まるのは、来年度になるという。
敬老パスのあり方を模索するのは、横浜市ばかりではない。愛知県名古屋市でも、このほど敬老パスの制度変更を決定した。
名古屋市は、1973年度から65歳以上の市民に敬老パスを支給している。名古屋市が敬老パスの制度を変更したのは、財政的な理由ではない。別の事情があると、名古屋市健康福祉局高齢福祉部高齢福祉課の担当者は説明する。
「名古屋市の敬老パスで利用できるのは、市営地下鉄・市営バス・あおなみ線・名古屋ガイドウェイバスの4つです。これらの交通機関は、名古屋市全域をカバーしているわけではありません。そのため、敬老パスの利用は地域によって大きく偏りがありました」
名古屋市の主要交通機関でもある市営地下鉄は、名古屋駅周辺の中村区や繁華街の栄駅が立地する中区では利用しやすい。
一方、市の周辺部にあたる南区・緑区・中川区・守山区などは地下鉄があっても使いづらく、敬老パスがあまり利用されていなかった。