国内

「独居老人」に部屋を貸したくない不動産業者の本音とは

高齢者に物件を貸したがらない世の中

高齢者に物件を貸したがらない世の中

 日本の高齢化率(65歳以上人口の割合)は28.1%にのぼる(令和元年版「高齢社会白書」)。推計によれば、高齢化率は今後も上昇し続け2036年には33.3%へ、2065年には38.4%に達する。対応が迫られている問題は多々あるが、なかでも住まいの問題は大きい。介護施設がなかなか見つからないといったことだけでなく、元気な高齢者が新たに住む場所を探すことが困難な状況なのだ。なかでも一人暮らしの人に立ちはだかる壁は高い。しかし、国立社会保障・人口問題研究所が2019年4月に発表した将来推計によると、2040年には高齢世帯のうち40%(896万世帯)が一人暮らしとなり、東京都で45%超(116万世帯)を超える見込みだ。住む場所の確保が難しい一人暮らし高齢者をめぐる賃貸住宅事情を、ライターの森鷹久氏がレポートする。

 * * *
「老人には家を貸せない、こう言われているようでした。老人には人権がないのかと……」

 東京都内在住の丸尾宗一さん(50代・仮名)は今年、関西地方に住む母(70代)を自宅近くに呼び寄せようと決めた。およそ5年前に父が他界し、一人暮らしをしていた母に認知症の傾向が出始めたからだ。一緒に生活をすることも考えたが、独立心の強い母はそれを拒否。それならばせめて近くに、ということで母の引越しが決定した。だが…。

「不動産会社を数カ所回りましたが、老人に部屋を貸してくれないのです。”何かあった時”に誰が責任を取れるんですか、と質問されるんです。何か、とは具体的になんのか、と聞き返しても、はっきりは言わない。本当に腹が立ちます」(丸尾さん)

 何か、とはいうまでもなく、高齢居住者が「亡くなること」である。独居老人を住まわせ、そして部屋で死なれて、発見が遅れれば事故物件になり得るし、物件価値の低下が避けられない。

「東京都監察医務院で取り扱った自宅住居でなくなった単身世帯の者の統計」(平成30年)によれば、平成30年一年間に自宅住居で亡くなった一人暮らしの人は、男性が3845人、女性が1668人。年齢別に見ると、最も多いのが男性では65~69歳の662人、そして70~74歳の651人、75~79歳の547人と続く。女性で最も多いのは85歳以上の484人で、80~84歳の371人、75~79歳の228人とある。高齢者の一人暮らしは、他の年代に比べると死亡時にどうするかという問題がついてまわるようだ。

 一人暮らしの高齢者が自宅で死亡することだけでなく、新しい環境に慣れるのが若い人より難しいことが多いため、近隣住人との思わぬトラブルも起きやすい。したがって、不動産屋や大家は、老人一人の入居を歓迎しないというわけだ。

 丸尾さんはやっと親身になってくれる不動産屋にたどり着いたものの、独居老人歓迎の物件はどれも古く、四階建てなのにエレベーターの設置がなかったり、治安の悪いエリアに位置していたりと条件が悪すぎる。結局、丸尾さんと母、二人で入居するという契約で、割高な1LDKの物件を借りた。

「まさかここまで手こずるとは思っていませんでした。なにより、老い先短い母には住む場所さえないのか、という現実に打ちひしがれた」

関連キーワード

関連記事

トピックス

劉勁松・中国外務省アジア局長(時事通信フォト)
「普段はそういったことはしない人」中国外交官の“両手ポケットイン”動画が拡散、日本側に「頭下げ」疑惑…中国側の“パフォーマンス”との見方も
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
佳子さまの「多幸感メイク」驚きの声(2025年11月9日、写真/JMPA)
《最旬の「多幸感メイク」に驚きの声》佳子さま、“ふわふわ清楚ワンピース”の装いでメイクの印象を一変させていた 美容関係者は「この“すっぴん風”はまさに今季のトレンド」と称賛
NEWSポストセブン
ラオスに滞在中の天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《ラオスの民族衣装も》愛子さま、動きやすいパンツスタイルでご視察 現地に寄り添うお気持ちあふれるコーデ
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が真剣交際していることがわかった
水上恒司(26)『中学聖日記』から7年…マギー似美女と“庶民派スーパーデート” 取材に「はい、お付き合いしてます」とコメント
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン