都内で複数の不動産仲介店を経営する坂田裕太さん(仮名・40代)も、独居老人には居住地の選択がないという現実を認める。
「かつて、水商売をやっている人、フリーターには物件を貸しづらいとされてきましたが、今の筆頭は”独居老人”です。大家さんが気にするのはやはり孤独死。特殊清掃費用に数十万円がかかるし、次の賃借人には割安で貸さなければなりません。今は、ネット上に事故物件をまとめた情報サイトなどもあり、事故のあった部屋だけでなく、物件全体の価値が大幅に落ちてしまう」(坂田さん)
それだけではない。独居老人が住んでいること自体が、近隣住人に不安を抱かせることになるという。
「独居老人が引っ越してきたけど大丈夫なのか、何日も姿を見ていないが死んでいるんじゃないか、などといった問い合わせが多く入ります。結果的に住民に不安を感じさせるのです。もはや集合住宅などでは、隣近所が高齢者、独居老人であるということはリスクという見方をする人だっています」(坂田さん)
あまりに乱暴なようにも思えるが「老人がいることがリスク」と考える大家や住人は、少なくないのだという。
「独居の高齢者が新規で賃貸住宅を借りるとなると、若者や家族に見向きもされないような古いアパート、マンションなど、大家さんが入居者についてあまり気にしない物件ばかりをご紹介せざるを得ません。東京23区内でこうした物件は増え続けていて、とあるアパートなどは、孤独死が一年に3度も発生したこともあるほど。ですが、次々に高齢者の入居が決まる。近隣住人は不審がっていますが……」
高額な契約金を支払ってホームに入居できる老人ばかりではない。むしろ今後は、ホームに入居できずこうした劣悪な物件に住まざるを得ない高齢者は増えていくと想像できる。今は、もし筆者の家の近くに、高齢入居者ばかり、年に何度も孤独死が発生するようなアパートがあれば、やはり引っ越しを考える立場だ。しかし、いつ私自身が、件のアパートの住人になるかもわからない。息子や娘がいたとしても、面倒を見てもらえる人ばかりではない。超高齢化社会という、人類が経験したことがない世界に、我が国がまさに突入したことを改めて感じさせる問題だ。