けれども、上の歌が単純に季節を愛でるものであれば、野心家説は見当違いも甚だしい珍説奇説の類と化してしまう。それに野心家として描くのであれば、丹念に伏線を描く必要も出てくるだろう。
2時間や3時間で終わるドラマであれば野心家説のほうが作りやすいが、一年を通して放送する大河ドラマでは、より複雑な心境の変化が描かれるのではないか。織田信長に対する思いが、さまざまな出来事を通じて右に左に変化を重ねる。光秀を主人公にしたのだから、そのように描くのが自然だろう。
以上はあくまで、筆者の希望を多分に交えた予想である。1996年放送の『秀吉』では有能で人間味豊か、禁欲的で冷静な人物として描かれていた光秀が、今回はどう描かれるのか。視聴者の期待も大きいだけに、製作スタッフも光秀を演じる長谷川博己も、相当なプレッシャーを感じているに違いない。
【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。著書に『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)、『いっきに読める史記』(PHPエディターズ・グループ)など著書多数。最新刊に『ここが一番おもしろい! 三国志 謎の収集』(青春出版社)がある。