店主は会話を断ち切るように男性に向かって、またお越しくださいませ、とだけいって、店に戻っていった。

「なんだか、すみません」

 仕事関係の男性は何も悪くないのに、私に謝る始末だった。

 無愛想な飲食店なんていくらでもある。分野によってはそれを売りにすることだって少なくない。ネットがない大昔のことだけれど、私はデートでカレーを食べ終わる前に水を飲むとどやされるというシステムの店に連れて行かれたことがあった。ちょっとしたアミューズメントパークみたいな体験だった。

 件のレストランのソムリエを「ハラスメント! 態度を改めろ!」と糾弾したいわけではない。今時、あんなに女性をないがしろにしてこの先大丈夫なのかなあなんてレストランの行く末を心配するほど暇でもない。ちなみに、仕事関係の男性はあれからその店を「Me Tooレストラン」と呼ぶようになった(彼は二度と女性をあの店には連れて行かないでしょうね)。無神経&無自覚な人が世の中の空気を作っているのだなあとしみじみ思った。

 別の日にはこんなことがあった。同世代の女性の友人が昇進をしたので、彼女の道のりをよく知る女友達で集まってお祝いの食事をした。レストランからバーに移動する際、四人でタクシーに乗った。老年の運転手はにこやかにこういった。

「これはまあ、はなやかですねえ」

 中の一人が、主役の女友達を示しながら答えた。

「この人の昇進祝い! 彼女、偉くなったのよぉ」

 酔いも手伝って、はしゃいでいる。運転手は顔をこわばらせながら呟いた。

「昇進? 女の人が?」

 弱々しい口調に、私たちはすっかり黙り込んでしまった。人の良さそうな運転手に悪気はないことはわかっている。これもまた「ハラスメント! 態度と考えを改めろ!」というつもりはない。正確にいえば、そこまでのエネルギーはないのだ。

 悪意がある場合はもちろんだけれど、悪意のある無しではなく、意識的に男女を差別している人には多少めんどうでも立ち向かわなくてはいけないと思う。しかし、無自覚かつささいな意識のずれまでいちいちこちら側で指摘していかなくてはならないとしたら、果てしない気持ちになる。

 ジェンダーギャップ121位の国はなかなかしんどい。

関連記事

トピックス

盟友である鈴木容疑者(左・時事通信)への想いを語ったマツコ
《オンカジ賭博で逮捕のフジ・鈴木容疑者》「善貴は本当の大バカ者よ」マツコ・デラックスが語った“盟友への想い”「借金返済できたと思ってた…」
NEWSポストセブン
米田
《チューハイ2本を万引きで逮捕された球界“レジェンド”が独占告白》「スリルがあったね」「棚に返せなかった…」米田哲也氏が明かした当日の心境
週刊ポスト
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
「『逃げも隠れもしない』と話しています」地元・伊東市で動揺広がる“学歴詐称疑惑” 田久保真紀市長は支援者に“謝罪行脚”か《問い合わせ200件超で市役所パンク》
NEWSポストセブン
佐々木希と渡部建
《六本木ヒルズ・多目的トイレ5年後の現在》佐々木希が覚悟の不倫振り返り…“復活”目前の渡部建が世間を震撼させた“現場”の動線
NEWSポストセブン
モサドの次なる標的とは(右はモサド長官のダビデ・バルネア氏、左はネタニヤフ首相/共同通信社)
イスラエルの対イラン「ライジング・ライオン作戦」を成功させた“世界最強諜報機関”モサドのベールに包まれた業務 イラン防諜部隊のトップ以下20人を二重スパイにした実績も
週刊ポスト
東川千愛礼(ちあら・19)さんの知人らからあがる悲しみの声。安藤陸人容疑者(20)の動機はまだわからないままだ
「『20歳になったらまた会おうね』って約束したのに…」“活発で愛される女性”だった東川千愛礼さんの“変わらぬ人物像”と安藤陸人容疑者の「異変」《豊田市19歳女性殺害》
NEWSポストセブン
児童盗撮で逮捕された森山勇二容疑者(左)と小瀬村史也容疑者(右)
《児童盗撮で逮捕された教師グループ》虚飾の仮面に隠された素顔「両親は教師の真面目な一家」「主犯格は大地主の名家に婿養子」
女性セブン
組織が割れかねない“内紛”の火種(八角理事長)
《白鵬が去って「一強体制」と思いきや…》八角理事長にまさかの落選危機 定年延長案に相撲協会内で反発広がり、理事長選で“クーデター”も
週刊ポスト
たつき諒著『私が見た未来 完全版』と角氏
《7月5日大災害説に気象庁もデマ認定》太陽フレア最大化、ポピ族の隕石予言まで…オカルト研究家が強調する“その日”の冷静な過ごし方「ぜひ、予言が外れる選択肢を残してほしい」
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で、あられもない姿をする女性インフルエンサーが現れた(Xより)
《万博会場で赤い下着で迷惑行為か》「セクシーポーズのカンガルー、発見っ」女性インフルエンサーの行為が世界中に発信 協会は「投稿を認識していない」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
《東洋大学に“そんなことある?”を問い合わせた結果》学歴詐称疑惑の田久保眞紀・伊東市長「除籍であることが判明」会見にツッコミ続出〈除籍されたのかわからないの?〉
NEWSポストセブン
愛知県豊田市の19歳女性を殺害したとして逮捕された安藤陸人容疑者(20)
事件の“断末魔”、殴打された痕跡、部屋中に血痕…“自慢の恋人”東川千愛礼さん(19)を襲った安藤陸人容疑者の「強烈な殺意」【豊田市19歳刺殺事件】
NEWSポストセブン