賢治自身も、5年間ほど、菜食主義だった時期がある。急性肺炎で倒れた後、周囲が何とか滋養のあるものを食べさせようとするが、菜食主義は改めなかった。
ぼくが賢治の主治医だったら、もっとタンパク質を摂るように言うだろう。ただ、「ビヂテリアン大祭」の主人公が生物の輪廻を思い、「我々のまわりの生物はみな永い間の親子兄弟である」と語るのを読むと、どんなふうに話したら賢治に納得してもらえるのか悩むところである。
賢治は天丼やうな丼が好きだったというから、「おいしいうな丼、食べに行こう」と誘ったら、案外あっさり乗ってきたかもしれない。
結局、賢治は37歳で亡くなった。昭和初期の男性の平均寿命は45歳に満たなかった。それと比べても賢治は短命である。死因は肺炎とされている。結核だったという説があるが、ぼくは間違いないと思っている。いずれにせよ、栄養不足で感染症に立ち向かう体力がなかったことは確かなようだ。
食は、思想と結びつきやすい。マクロビオティックという健康法も思想から始まった。玄米、雑穀、全粒粉のパンなどを主食とし、野菜や豆類、海草を中心に食べるのが特徴で、肉や卵、乳製品は原則として食べない。
このマクロビオティックをアメリカで普及させた久司道夫さんと生前2回ほど対談した。マドンナやトム・クルーズも実践していたという。