「中国人のお客さんを乗せるのは正直、怖いですよ。関西から乗せて4泊5日で東京で降ろすまで、ずっと一緒やからね。中国のお客さんと言っても様々で、通訳さんに聞くと、『日本は安全だから』とマスクもせずに乗車している人もいれば、『消毒液はありますか』『私たちが観光している間に換気しておいてくださいね』と言う心配性の人もいる。
正直、心配なのは僕ら従業員ですわ。会社は中国人客のキャンセルの対応に追われ、てんやわんやみたいやけど、僕ら運転手にはアルコール消毒液をわたして“普段より注意してくれ”と言うだけですから。感染者が出た会社のことを“気の毒に”と思っているぐらいの感覚とちゃいますか」
浅草駅近くに停車し、中国人客の観光中に駐車場で待機していたバス運転手はこう話した。
「新型肺炎のニュースをリビングで見ていたら、嫁さんに『うちに帰ってこないでね』と言われました。小さい子供がいるし、嫁さんもサービス業をやってるんでね。『肺炎のニュースが落ちつくまで、しばらく会社の寮に泊まってきて』って言うのは、半ば本気だと思います」
インバウンド専門の会社のツアーを請け負うことが多いという運転手は「家族のために稼がないといけないから、仕事を断わるわけにはいかない」とこぼした。
「ウイルスをうつされるのは御免ですが、仕事ですから『中国人が乗るバスなら運転したくない』なんて言えません。同僚とは『もし感染して死んだら労災が出る』なんて話していますが、とても笑い話になんてなりませんよ」
※週刊ポスト2020年2月14日号