ライフ

知られざるアイヌと北方少数民族【前編】 アイヌ新法への本音

かつて強制移住させられた江別市対雁にある、樺太アイヌの慰霊のための墓(撮影/竹中明洋)

 アイヌ新法が昨年成立し、4月には国立アイヌ民族博物館がオープンする。アイヌを取り上げた小説や漫画が脚光を浴び、日本における少数民族、先住民族がにわかにクローズアップされている。

 だが、私たち日本人は、開拓期の北海道で本当に何があったのか、大国の日露の狭間で翻弄された彼らの歴史を知っているだろうか。厳冬の北海道に閉ざされた彼らの苦難の歩みを、ジャーナリスト・竹中明洋氏が取材した。

 * * *
 アイヌ文化への関心がにわかに高まっている。

 牽引役となったのは人気コミック『ゴールデンカムイ』(野田サトル、集英社)だ。2018年に手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞し、昨年にはシリーズ累計で1000万部を突破。昨夏、英ロンドンの大英博物館で開催された「マンガ展」のキービジュアルに、同作のヒロインのアイヌ少女・アシリパが選ばれた。

 今年1月15日には、樺太アイヌを主人公のひとりに据えた『熱源』(川越宗一、文藝春秋)が直木賞を受賞。両作品ともに、開拓時代の北海道や樺太を舞台にした冒険活劇である。

 そうしたコミックや小説だけでない。政治的な動きからも、アイヌを取り巻く環境は大きな転換点を迎えている。

 札幌から特急に乗り1時間あまりで白老町に着く。1月中旬、駅前などあちこちで急ピッチの工事が進められていた。雪道に足を取られながら駅から歩くこと10分ほどで、森や湿原に囲まれた「ポロト湖(アイヌ語で「大きな沼」の意)」に着く。その湖畔に立つ、軍艦のような巨大な黒い建物が、4月オープン予定の国立アイヌ民族博物館だ。

 周辺には、アイヌの伝統舞踊の公演などが行われる体験型フィールドミュージアムの国立民族共生公園や、アイヌの伝統的な家屋「チセ」など、その一帯は民族共生象徴空間と位置づけられ、アイヌ文化の復興や創造の拠点になるという。愛称は「ウポポイ」。アイヌ語で「(大勢で)歌う」という意味だ。総事業費は約200億円。年間100万人の来場者を見込むという。

 ウポポイの整備事業と並行して昨年4月、国会で成立したのが、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」、通称「アイヌ新法」である。

 1997年に制定された「アイヌ文化振興法」が文化の保存・発展に限定された法律だったのに対し、新法では、第1条でアイヌが先住民族であると初めて明記し、その権利を保障するように国や自治体に求めた。アイヌへの差別の禁止や、アイヌ伝統の儀式や漁法を伝承するため、サケの捕獲や国有林の林産物の採取を認めることなども盛り込まれた。

 そんなアイヌへの関心の高まりは、私にとって隔世の感がある。

関連キーワード

関連記事

トピックス

吉村洋文・大阪府知事の政策の本質とは(時事通信フォト)
吉村洋文・大阪府知事が「ライドシェア大幅緩和」を主張で「かえって渋滞を深刻化させる」リスク 派手な改革を求めるほどに際立つ「空疎さ」
週刊ポスト
高級寿司店でトラブルが拡散されたA子さん(寿司の写真は本人SNSより)
《高級寿司店と炎上の港区女子に騒動後を直撃》「Xの通知が一生鳴り止まないんじゃないか」大将と和解後の意外な関係
NEWSポストセブン
(左から)湯周り給湯設備メーカー「ノーリツ」の新商品発表会に出席した安めぐみと藤本美貴
【不倫の抑制にも】藤本美貴、安めぐみ「結婚相手は芸人がいい!」 は意外と正論「夫婦セット売りで裏切れない関係に」
NEWSポストセブン
小倉優子
小倉優子、早々の「大学留年宣言」がおいしすぎる理由 「女子大生+ママ」の二刀流は唯一無二、ゆくゆくは企業の役員の道も?
NEWSポストセブン
一時は食欲不振で食事もままならなかったという(4月、東京・清瀬市。時事通信フォト)
紀子さま“体調不良報道”でも気丈な姿、単独公務先で「こちらにどうぞ」と気さくに声かける お元気そうな様子に同行していた記者たちは驚き
週刊ポスト
現地でくばられたノアさん関連のビラ(時事通信フォト)
《人質らが証言する劣悪環境》ボーイフレンドの目の前でハマスに拐われた26歳女性の救出に成功も「体重激減」「ゴミ箱で排泄」の惨状
NEWSポストセブン
6月9日、鹿児島市内の認定こども園で、刃物のようなもので男児の首を切りつけて出血させたとして、殺人未遂容疑で逮捕された笹山なつき容疑者(21)
《鹿児島2歳児切りつけ》「見えたらいけないものが…」21歳の女性保育士が犯行前にSNSで意味深投稿 母校の高校関係者は「夢の実現目指して熱心に勉強を」
NEWSポストセブン
中村芝翫と三田寛子
三田寛子、夫・中村芝翫と愛人の“半同棲先”に怒鳴り込んだ「絶妙タイミング」 子供たちも大事な時期だった
週刊ポスト
全国ライブ中の沢田研二
《ファンの声援にブチ切れ》沢田研二が「見てわからんか!」とステージ上で激怒し突っ込んだ「NGワード」
NEWSポストセブン
長所は「どこでも寝られるところ」だと分析された(4月、東京・八王子市。時事通信フォト)
愛子さま、歓迎会の翌日の朝に遅刻し「起きられませんでした」と謝罪 “時間管理”は雅子さまと共通の課題
NEWSポストセブン
日本中を震撼させた事件の初公判が行われた
【悲劇の発端】瑠奈被告(30)は「女だと思ってたらおじさんだった」と怒り…母は被害者と会わないよう「組長の娘」という架空シナリオ作成 ススキノ事件初公判
NEWSポストセブン
【全文公開】中村七之助、梨園きってのモテ男が“実家お泊り愛”の真剣交際 お相手は京都の芸妓、直撃に「ありがとうございます」
【全文公開】中村七之助、梨園きってのモテ男が“実家お泊り愛”の真剣交際 お相手は京都の芸妓、直撃に「ありがとうございます」
女性セブン