当時の團宏明・理事長は元日本郵政副社長で、外部から招聘された人物。それを煙たがった反理事長派の棋士が“クーデター”を起こそうとしていると読み取れる内容だった。日本棋院内部の権力闘争である(團氏は本誌取材に「訴訟について、私は何も知りません」と回答)。
この團氏が昨年3月、日本棋院の経営立て直しに失敗したことを理由に突然辞任し、副理事長だった小林氏が理事長に就任すると、原氏は「中傷メールを送った」と臨時理事会で常務理事を解職(理事は継続)される。原氏は昨年8月、解職決議は無効だと地位保全の訴訟を起こす。
そもそも依田氏がツイッターで小林氏を批判したのは、妻の解職に納得できなかったからだった。
本誌は原氏に取材を申し込んだが、「訴訟中なので取材は受けられない」と話すのみ。かわりに依田氏に話を聞くことができた。
「覚さんとは棋士の中で一番仲が良かったんです。仲邑菫ちゃんの話もして、入段(プロ入り)はいいことだと。しかし、組織のあり方は間違っている。現体制は、自分の仲間は擁護するけれど、気に入らない人間はどんな理屈をつけても排除しようとする集まりにしか見えない」
日本棋院は「係争中のため、コメントを差し控えさせていただきます」と答えた。
日本棋院では仲邑初段に続けと12歳の上野梨紗氏、13歳の張心澄(ちょう・こすみ)氏らが続々プロ入り。“天才少女”たちの熱戦でブームが盛り上がりそうな時に、依田氏と小林氏の泥仕合は水を差すことになりかねない。
元名人と元棋聖は、どこで“手筋”を読み間違ったのだろうか。
※週刊ポスト2020年2月28日・3月6日号