ひとりのアスリートを両親がサポートするケースはよくあるものの、兄が妹の練習パートナーを務めるようなケースは稀だ。まして、柔道のような対人競技であればなおさらではないだろうか。勝が5歳下の妹と練習を共にするようになった直後、2017年4月の選抜体重別で素根は日本一に輝く。
「その年の世界選手権の団体戦のメンバーに選んでいただいた。そこで、本人の中で夢だったオリンピック出場が、現実的な目標に変わったと思います」
当時の素根には、身体全体のバランスが良く、相手の技を受けても簡単には崩されない、“負けない”柔道という印象が強かった。だが、裏を返せば、相手を一発で仕留める技はなかった。それゆえ、東京五輪を目指す上で、最大のライバルであった朝比奈のように体格で勝る選手が相手だと、上から抑えつけられて、どうしても力で組み伏せられるような印象があった。
だが、2018年に入ってそうした負のイメージも消えてゆく。同年は選抜体重別に続き、初出場だった皇后盃(全日本女子選手権大会)でも朝比奈を連続で破って優勝した。
「(朝比奈は)一番、意識していた選手でした。自分もビデオを観て、研究し、それを稽古に活かしていましたね。朝比奈さんは技の受け方がうまく、(体格の利を活かして)身体で弾いてくるタイプなので、それをどうくぐり抜けて、いかに輝の技につなげられるか。(釣り手を)上から持たれることが当初は多かったんですが、反対に輝が上を持って、相手の間合いをつぶすことを意識した。組み合うことさえできれば、輝は投げられるという自信があった」
2019年に入って、素根が生まれ育った久留米を離れ、岡山・環太平洋大学に進学すると、勝も母と妻と共に岡山へ。大学内にある整骨院で働きながら、素根の練習相手を務め、身体のケアも行った。全日本チームの合宿などにも勝は付き添い、その間、母は久留米に帰るような生活を続けてきた。