この頃に特徴的なのが、盛んに起こった一揆や戦国大名の台頭に象徴される「下剋上」の風潮だ。今川義元がれっきとした駿河守護の家系であるのに対し、親子二代で国盗りをしたと言われる斎藤道三は守護代・斎藤氏の家名を奪い、織田信秀にいたっては守護代・織田氏の傍流に過ぎなかった。全国的に見れば、守護大名がそのまま戦国大名に移行する例は稀だった。
各地の戦国大名が京の天皇と将軍を敬うのは官位官職が欲しいときだけ。あとは一切命令に従わず、隣国との戦乱に明け暮れる──それこそが、『麒麟がくる』の主人公・明智光秀(長谷川博己)がまだ斎藤道三の家臣だった頃の実情だった。
美濃国の本来のトップは守護職を代々務める土岐氏だが、織田信秀と結んで道三から権力奪回を図ろうとした土岐頼純(矢野聖人)は毒殺され(ドラマ第2回)、新たな傀儡として土岐頼芸(尾美としのり)が擁立された(同3回)。斎藤道三がみずから守護職につかないのは、父の代に他国から流れてきた新参者で、土着勢力から心服を得るまでにいたらずにいたからだった。
一方、京とその周辺では、13代将軍・足利義輝(向井理)、幕府管領・細川晴元(国広富之)、細川の家臣・三好長慶(山路和弘)、その三好の家臣・松永久秀(吉田鋼太郎)らが暗闘を続けていた。
表向きは足利義輝→細川晴元→三好長慶→松永久秀の序列が尊重されながら、現実には下3人がほぼ横一線上にあった。三つ巴と言うか三すくみと言うべきか。天秤を動かす力が現われれば、いつ均衡が崩れてもおかしくなかったのが当時の京の勢力図であった。
ドラマ第6回では、将軍と細川晴元、三好・松永陣営の三者間による鉄砲獲得競争に加え、細川晴元による三好・松永襲撃事件が描かれた。ひょんなことから計画を知った光秀が助太刀に馳せ参じ、三好・松永の窮地を救うという展開だったが、そうした史実はない。襲撃事件自体も完全な創作だが、当時の空気をわかりやすく見せてくれており、多くの視聴者の期待に応えたと言えるのではないか。