「高齢になると朝カーテンを開けなくなる。それで生活リズムが乱れるのが万病の元」というのは、その後、取材した老年医らが口をそろえる話。そういえば、友人たちの老親のエピソードでも“薄暗い部屋でテレビをボ~ッと見ている”とか、“カーテンを閉めっぱなしの部屋でつまずいた”などとよく聞くのだ。
確かに母の部屋もカーテンが閉まっている印象だ。仕事帰りの夕刻に行くことが多いので気に留めていなかったのだが、ある晴天の日、玄関を開けると、遮光された部屋に蛍光灯が青白く光っていた。怪しげな研究室のようで、思わずカーテンを乱暴に開けて、「なんでカーテン閉めてるの! ボケちゃうよ!!」と言うと、ぼんやりして、いつもの取り繕いさえできなかった。
またある日などは、昼前にもかかわらず、照明も消してまっ暗闇。こんなに暗ければ夜だと勘違いしてもおかしくない。母はちゃっかり布団にもぐりこんで居眠りしていた。
「ちょっとママ!! いま、まっ昼間だよ!」とキレながら、怒りは自分に向かっていた。認知症で季節や時間の見当識も危ういのに、外光を遮断しては逆効果ではないか!
カーテンの向こうに見えるけやきの街路樹が、美しい新緑になる季節はもうすぐ。明るい陽を感じられる新しいカーテンを探しに行こうと思う。
※女性セブン2020年3月19日号