当時、ハムレットの心境にあった鈴木氏の背中を押したのはウインストン・チャーチルのこんな言葉だった。

《お金を失うことは小さく失うことだが、名誉を失うことは大きく失うことだ。しかし、勇気を失うことは全てを失うことだ》

 市長選のライバルは自民党の前衆議院議員で小泉チルドレンの飯島夕雁氏。鈴木氏の応援には当時の石原慎太郎都知事と猪瀬副知事が駆け付け、飯島陣営には武部勤、片山さつき、橋本聖子ら現職国会議員が姿を見せた。激しい選挙戦に揺れた人口1万1000人の小さな町が選んだのは、とことん夕張を愛する30歳の新人候補だった。

 2011年4月に夕張市長に就任すると財政再生計画の抜本的な見直しを進め、JR石狩線夕張支線の廃線や全国初のコンパクトシティ計画の策定などの成果を残した。2019年1月、「活力あふれる北海道にしたい」とまたも退路を断って知事選に出馬し、見事当選した。

「彼はまっすぐに突き進むから『直道』という名前がぴったりです。困ったときに強いから、頼りがいがあります」──夕張市長に就任直後、当時婚約者だった鈴木氏の妻が、未来の夫について筆者に語った言葉だ。

「若すぎる」や「経験不足」という批判は鈴木知事にとって聞きなれたものであるはず。全国でただひとりの30代知事がこれまでの人生のように、勇気をもってまっすぐに突き進み、ウイルスという未知の困難に打ち勝つことを期待したい。

●取材・文/池田道大(フリーライター)

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