萩本の中学1年は1954年、28歳は1969年。若干の記憶の誤差はあるようだが、実際に『不運』と『幸運』の年数は同じになる。貧乏の始まった小学4年は1951年。『コント55号』がテレビに出始めたのは1968年。休養宣言が1985年。たしかに17年ずつで辻褄が合うのだ。

 このように、萩本は異常に思えるほど“運”にこだわる。しかし、単なる神頼みをしているわけではない。むしろ、弛まぬ努力をしているからこそ、運について考えるのではないか。

 3月10日放送の『プロフェッショナル』(NHK)では、『欽ちゃん&香取慎吾の全日本仮装大賞』(日本テレビ系)の収録に望む姿が映し出されていた。78歳の萩本は本番4時間前から出場者のリハーサルを見て、誰に何を聞くか熟考していた。

 この姿勢は、週に何本もの番組を抱えていた頃から変わっていない。1982年10月開始の『欽ちゃんの週刊欽曜日』(TBS系)では、放送半年前から出演者とともに稽古に励んでいた。しかし、1回目のオンエアを見た萩本は2回目から中身をまるっきり変えた。

〈一回のオンエアの後に変えたんだから、一回だけ稽古したほうが無駄がないかと言えば、違うの。それは失敗するんです。もうどこをどう急に変えても対応できるだけの力を蓄えるために半年やってたということです。だから半年は無駄のようで、無駄じゃない。(中略)失敗だと気づいた時に、いち早く直せるのは、その前に無駄と思える積み重ねがあるからですよ〉(前掲『まだ運はあるか』)

 方向転換で生まれた『欽ちゃんバンド』が人気を呼び、『週刊欽曜日』は視聴率30%を超えた。メンバーの訓練は決して無駄にならなかったのである。ただし、懸命に練習を積んだのに、結果の出ない時もある。1988年4月開始の『欽ちゃんの気楽にリン』『欽きらリン530!!』(ともに日本テレビ系)でも何か月も前から稽古に励んだが、『気楽にリン』は2ヶ月で、『欽きらリン』は半年で終了した。

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