国内

元特殊詐欺関係者が予測する「強盗多発社会ニッポン」

詐欺犯募集に警告する愛知県警。特殊詐欺件数は減っているが……(時事通信フォト)

詐欺犯募集に警告する愛知県警。特殊詐欺件数は減っているが……(時事通信フォト)

 自宅にある現金や資産状況、家族構成などを探るアポイントメント電話(アポ電)をきっかけとした犯罪被害が拡大している。従来それはオレオレ詐欺などの特殊詐欺への入口と言われていたが、最近は強盗被害に遭う事例も頻出しており、警戒を強めた警察庁は2019年4月から「アポ電」について統計を取り始めた。詐欺から強盗、ひどいときは殺人さえともなう集団へと変質してしまった特殊詐欺グループの凶悪さについて、ライターの森鷹久氏がレポートする。

 * * *
 筆者が「特殊詐欺事件」を本格的に取材し始めたのは、2011年ごろ、ちょうど東日本大震災の直後のことだった。郵便物や電話を用いて高齢者から巧みに金をだまし取る詐欺は、突如発生したものではないが、手口がより巧妙で多様になったこと、さらにはそれまでとは比較にならないほど被害額も件数も多くなってきたことから、警察当局はオレオレ詐欺や振り込め詐欺など、細かく分類してきた呼び方を総称の「特殊詐欺」へあらため、注意喚起をしている。

 さて「詐欺」と聞いて、どういう手法で行われるものをイメージするだろうか。辞書を引けば、詐欺とは「他人を騙したり欺いたりして金品を奪うこと」とある。近年の「特殊詐欺」は、まさに人を騙すための手法があまりに巧妙化したからこそ、これほどまでに被害が拡大した。かつて「オレオレ詐欺」と呼ばれた子供のフリをして金品を要求する手口だけでなく、電話の向こうで警察官や弁護士、裁判所職員や子供の上司や友人を名乗る複数の人物が入れ替わり立ち替わり登場し、迫真の演技でもって被害者を欺く「劇場型詐欺」などは知っている人も多いだろう。

 ところがだ。筆者がインタビューした元特殊詐欺関係者・X氏から驚くべき「動向」を聞いたのは、三年半前のこと。「特殊詐欺」が、詐欺ではなくなるかもしれないと次のように話したのである。

「特殊詐欺で使われる金持ち名簿などを使って、空き巣や悪質な訪問販売が発生するかもしれません。そちらの方が手っ取り早い」(X氏)

 このX氏の見立ては、昨年一月に、名簿をもとに資産や在宅状況などを確認、つまりアポイントメントをとったうえで強盗を実行する「アポ電強盗殺人事件」が発生したことで、残念ながら当たってしまった。当時X氏が「強盗くらいならすると思ったが、まさか殺しまで」と絶句したことも、ちょうど一年前に記事にしたのである。そしてそれから一年がたった。現状はどうか。全国紙社会部記者の話。

「東京・江東区で起きたアポ電殺人事件を皮切りに、昨年の4月から12月に全国で9万1798件のアポ電が確認されたと警察庁が発表しており、今年発生した複数の強盗事件でも、アポ電があったことが確認されています。オレオレ電話などを用いた旧来の特殊詐欺事件は減少傾向ですが、中身を見ると、知能犯というよりより凶悪な強行犯的な色合いが強くなっている」(社会部記者)

 もはや、金持ちや高齢者をうまく騙して金を取り上げる、では済まなくなってきた。先方に金があれば、手段を選ばず奪い取るという次なる「フェーズ」に特殊詐欺は移行したのだ。アポ電の行為自体は、確かに銀行員や警察などになりすます、従来の「詐欺」的要素が強いが、その先、実際に金を奪いにくる実行部隊はといえば、人殺しでも厭わず、もはや「特殊詐欺犯人」とは形容できない凶悪犯人の姿そのものなのだ。

「当局による取り締まり、マスコミの徹底した注意喚起が功を奏し、従来の特殊詐欺では金が得られなくなったんです。そこで、詐欺に用いていた個人情報を使って、もう強盗でも人殺しでもなんでもいいから、金があれば取りに行くという連中が現れた。金があることだけ確認できたら、騙したり欺いたり、面倒なことをせずに即、奪う」(X氏)

関連キーワード

関連記事

トピックス

靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
公金還流疑惑がさらに発覚(藤田文武・日本維新の会共同代表/時事通信フォト)
《新たな公金還流疑惑》「維新の会」大阪市議のデザイン会社に藤田文武・共同代表ら議員が総額984万円発注 藤田氏側は「適法だが今後は発注しない」と回答
週刊ポスト
“反日暴言ネット投稿”で注目を集める中国駐大阪総領事
「汚い首は斬ってやる」発言の中国総領事のSNS暴言癖 かつては民主化運動にも参加したリベラル派が40代でタカ派の戦狼外交官に転向 “柔軟な外交官”の評判も
週刊ポスト
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン