体外受精によって生まれた子の数は増加傾向にある。日本産科婦人科学会によると、2017年には過去最多の5万6617人が誕生し、この年に生まれた子供の16人に1人という割合となった。
それによって、これまでには想定し得なかったケースも発生するようになった。三平弁護士の解説。
「仮に受精卵の冷凍保存期間中に父となる男性が亡くなった場合、父の死後に母が妊娠することを想定した民法上の規定がないので、認知される可能性はゼロです。
そうなると例えば、生まれてくる子は父の遺産も相続できません。ただ、明確なルールがないので、他の遺産継承者が認めれば相続できる場合もあります。しかし、そうすると遺産を目当てにした冷凍精子の奪い合いが起きる可能性も否定できません」
では、体外受精ではない場合の妊娠でも、男性が「産まない権利」を主張することはできるのか。
「一般的な性行為での子供を女性が無断で出産したとして、男性が『自己決定権の侵害』を主張し出産の拒否を申し立てても、認められません。婚姻や子作りの意思いかんにかかわらず、性行為は子供をつくる前提の行為と見なされるからです。
さらに、父母の意思だけではなく、胎児の保護が義務付けられています。中絶が認められるのは母体の健康を害する場合や、経済的困難な状況にある場合などですので、それ以外で中絶を行なうと堕胎罪に問われます。むしろ、女性側は子を産み育てるかどうかを意思決定する権利を行使し、中絶を迫る男性を訴えられる可能性はあります」(三平弁護士)
◆同意なくても「父子関係」