前述したように私の記事はインタビューを再現したもので、歪曲などはしていない。インタビューの録音やテレビ映像等の記録も残されている。改めて録音を聞き直すと、以下のようなやり取りがある(通訳は同席したプロによる)。
〈──徴用工裁判の話なんですけど、徴用工で働いた人はものすごいたくさんいますけど、どういう補償の仕方が一番望ましいと思いますか。
「まあ、補償して貰うことってないんじゃない……」〉
〈──日本政府は、この徴用工の補償の問題は1965年に終わったという認識なんですけど、日本政府に対して何か言いたいことっていうのはありますか。
「日本政府にもないよ、貰うものは自分は貰ったんだから」〉
〈──他の徴用工の人が日本企業を訴える気持ちっていうのは理解出来る部分があるんですか。それとも、理解出来ないですか。
「まあ、裁判を起こして特に得をすることはないと思うんだけど。もう年寄りだから、何も要らないんだよ、お金も」〉
歪曲という指摘はまったく心当たりのないものだった。それ以上に崔漢永さんが証言を翻したことも気になった。MBCで「ここまで事実をねじ曲げて書くとは思わなかった」と語ったチャン・ドクファンなる人物を私は取材したこともないし、もちろん崔さんの取材にも同席はしていなかった。私から言わせれば、“歪曲”報道をしているのはMBCの方だった。
MBCからの取材は、放送日の昼に質問メールを週刊ポスト編集部に送ってきただけだった。そして彼らは週刊ポストや私からの回答を待つことなく、ニュースを流した。初めから“決めつけ”で報道する意図だったことは明らかだった。もしMBCが真相をより深く取材したいと考えるなら、私は彼らの取材に応じてもいいと考えていた。
韓国メディアが元徴用工の言葉を正確に報じたとしたら、それは画期的なことになる。日韓メディアで共同取材を行い、歴史問題について正しい報道を行うことが出来れば、それは日韓関係が改善する大きな契機となり得るからだ。