一方で「歪曲報道とされたのだから、MBCに厳重に抗議をしたほうがいいのではないか」とアドバイスをくれる人もいた。だが週刊ポスト編集部とも話し合い、事態を静観するという方針を決めた。
なぜならば、崔漢永さんは今も韓国社会の中で生活を続けている。彼にはMBCの取材で“違う言葉”を言わざるを得なかった理由があったのだと思う。もし私や週刊ポストが厳重に抗議をすれば、韓国でその問題が沸騰し、彼の立場がますます無くなってしまうことが懸念された。場合によっては、身の安全すら危うくなるかもしれない。そうした事態を招くことは避けたかった。
ただ、MBCで報道された以上、どこかのタイミングで私のほうからも説明責任を果たす必要があるとも思っていた。そこで拙稿で記事は事実に基づいたものであり、「歪曲」や「捏造」はなかったと表明させてもらうことにした。詳しい取材の経緯や、崔漢永さんのインタビュー全文は、拙著『韓国人、韓国を叱る 日韓歴史問題新証言者たち』(小学館新書)で詳述している。
なぜ日韓歴史問題でウソや歪曲がまかり通るのか。MBC報道はその構造を端的に示していたように思う。
事実関係の検証よりも、彼らが望む形の“物語”が報道においても優先される。時には“物語”を歪曲してでも、それは行われる。つまり“反日”というイデオロギーが、今もなお韓国メディアの間では蔓延しているということなのだろう。