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十一代目桂文治の面目躍如の相撲噺、実にパワフルな爆笑派

 大相撲にまつわるマクラをたっぷり語ってから文治が演じたのは『阿武松』。「飯を食いすぎる」と京橋の武隈に破門された能登出身の若者が、故郷の皆に会わせる顔がないと死を覚悟、最後に腹いっぱい飯を食おうと泊まった板橋の旅籠の主人橘屋善兵衛の仲介で根津の錣山に再入門して六代横綱にまで出世する人情噺で、文治は独自の台詞廻しで情に厚い善兵衛の人柄を見事に表現し、物語に深みを持たせた。若者が凄い勢いで飯をお代わりする様子を、見守る善兵衛の視線の変化とリズミカルな首の動きで表現して「まるでわんこそばだね」と呟くのは文治ならではの楽しい演出だ。

 クライマックスの旧師弟対決を名調子の地語りで盛り上げ、一気に大団円へ。演者の親しみ溢れるキャラと力強い語り口とが一体となった、ダイナミックな口演だった。

 この日は相撲噺の他に、女が持病の癪の合薬として通りがかりの武家の禿頭を舐める『やかんなめ』も演じた。柳家小三治が掘り起こしたこの噺を、文治はメリハリの効いた演技でコミカルに表現、大いに笑わせた。正攻法の巧さで引き込む『阿武松』とはまた別の、「パワフルな爆笑派」文治の面目躍如の一席だ。

 今なお落語ファンの記憶に残る十代目から大名跡を継いで8年。「当代文治」は現在進行形の落語界で活躍する演者として、完全に定着した。

●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。

※週刊ポスト2020年4月17日号

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