困るのは取引について文書がないことです。配送業者が納品していたら、数量や種類は第三者的立場の業者の記録で証明できますが、自分で納品していた場合には、そうはいきません。支払いが振込みであれば、支払額は証明できますが、様々な種類の部品を別々の単価で納めていた場合、数量を立証することは不可能です。
部品の種類が単一で、単価も同じなら、過去の支払いから数量の計算ができます。その数量が毎回ほぼ同数で、今回の納品の数量と一致すれば、発注の事実と前担当者に権限があると信じた正当な理由があることの裏付けになり、取引先に全量の引取りと代金支払いを求めることが可能になります。
以上でもおわかりだと思いますが、書類がないと苦労します。下請法では製造委託をする会社に対し、数量や代金額を記載した書面を委託先に交付することを義務付け、違反すると罰則もあります。そこで公正取引委員会へ相談する方法も考えられます。
【弁護士プロフィール】竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2020年5月1日号