国際情報

台湾ネット民がSGP首相夫人を攻撃した「マスク問題」の背景

ミシェル・オバマ氏(写真右)と並ぶホー・チン氏(AFP=時事)

 マスクの有無はスーパーの棚だけの問題ではなく、国際問題にも発展している。拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。

 * * *
 新型肺炎の感染拡大が止まらず多くの国がその対応に苦慮するなか、国際社会では不足する医療物資の支援をめぐって、様々な思惑が交錯し始めている。

 いわゆる“マスク外交”と呼ばれる動きだが、なかにはかえって摩擦を引き起こしたり、警戒を呼ぶといったドタバタも起きている。支援とは反対の動きや思惑が見え過ぎて敬遠されることもあり、上手くやっているとはいいがたい状況も散見される。

 4月1日には、マスクなどの医療物資を積んだロシアの軍用機がニューヨーク・ケネディ空港に降り立ち世界を驚かせた。冷戦期の激しい対立を思い起こせば信じられない光景である。

 そのアメリカは、カナダや中南米向けに出していた3M製マスクの輸出禁止を要請し、マスクをあてにしていた国々を慌てさせた。それどころかドイツやフランスが注文したマスクを空港などで強奪したとの疑惑までかけられている。

 一方の中国は、感染爆発が起こった直後のイタリアにマスクや医療スタッフを派遣し、その後はバルカン半島の国々への支援に力を入れたが、この動きに対しEUの分断をもたらしているとの批判が持ち上がり、効果は半減した。マクロン大統領やメルケル首相がにわかに中国に厳しい発言を始めたのは象徴的な変化だろう。

 こうした動きはアジアでも顕著だ。中心になっているのは新型肺炎対策で名を挙げた台湾である。4月中旬には、マスクの援助をめぐり台湾のネット民がシンガポールのリーシェンロン首相夫人のホー・チン氏を攻撃するという問題が起きた。きっかけは台湾がシンガポールにマスクの支援を申し出たのに対して、夫人がSNSで「えっと……」と応じたことだった。

 普通に考えれば、夫人の返信こそが失礼となる。だが、この反応には理由があった。というのも台湾は1月に新型肺炎の拡大が伝わると、間もなくマスクの輸出を止めてしまい、そのせいでシンガポールが危機に陥っていたからだ。結局、シンガポールは3月上旬になってやっと自国でマスクを生産する態勢を整えることができた。その直後に台湾が「マスクの支援」を申し出たのだ。「えっと……」となるのも自然だろう。

 台湾ではこれを入り口に新型肺炎対策にもケチがつき始めた。例えばマスクの不足を防いだ対策も、輸出を止めてしまったことやもともとバイクで通勤する人が多く日ごろからマスクのストックを個々人が持っていた点などが指摘され始めたのだ。

 また4月23日には台湾が30万枚のマスクを支援したベトナムが、その裏で逆にフランス、ドイツ、イタリア、スペイン、イギリスからカンボジアやラオスにまでマスクを支援していたことが明らかになった。台湾の外交環境が縮小している問題の突破口として打ち出された新政策「新南向計画」も入り口で躓いたかたちだ。

関連記事

トピックス

オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
公金還流疑惑がさらに発覚(藤田文武・日本維新の会共同代表/時事通信フォト)
《新たな公金還流疑惑》「維新の会」大阪市議のデザイン会社に藤田文武・共同代表ら議員が総額984万円発注 藤田氏側は「適法だが今後は発注しない」と回答
週刊ポスト
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン
“反日暴言ネット投稿”で注目を集める中国駐大阪総領事
「汚い首は斬ってやる」発言の中国総領事のSNS暴言癖 かつては民主化運動にも参加したリベラル派が40代でタカ派の戦狼外交官に転向 “柔軟な外交官”の評判も
週刊ポスト
黒島結菜(事務所HPより)
《いまだ続く朝ドラの影響》黒島結菜、3年ぶりドラマ復帰 苦境に立たされる今、求められる『ちむどんどん』のイメージ払拭と演技の課題 
NEWSポストセブン
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
公職上の不正行為および別の刑務所へ非合法の薬物を持ち込んだ罪で有罪評決を受けたイザベル・デール被告(23)(Facebookより)
「私だけを欲しがってるの知ってる」「ammaazzzeeeingggggg」英・囚人2名と“コッソリ関係”した美人刑務官(23)が有罪、監獄で繰り広げられた“愛憎劇”【全英がザワついた事件に決着】
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
NEWSポストセブン