コントや漫才のネタの面白さがウリの芸人と比べると、歌もモノマネも、山口智充という人間にしかできないような芸だと言っていい。その実力についてお笑い評論家のラリー遠田氏は、「前衛的で高度な芸を持ちながらも、素のキャラクターは爽やかで優しくてあたたかみがある。この二面性こそが山口さんの芸人としての魅力」と評する。
「山口さんは芸人としてはトップクラスの芸達者です。モノマネ、歌マネ、音マネなどの多彩なレパートリーを持ち、歌唱力も抜群。しかも、単に真似るだけにとどまらず、テレビでは放送できないようなマニアックな下ネタモノマネも得意としているため、芸人の間でも一目置かれています」(ラリー遠田氏)
さらに注目しておきたいのは、地上波全国放送以外に目を向けると、山口には現在もなおレギュラー出演している番組が複数あるということだ。なかでも東海テレビのバラエティ番組『ぐっさん家〜THE GOODSUN HOUSE〜』は、今年で放送開始から18年目を迎えるほどの人気ぶりだ。
「タレントとしては『ぐっさん家』という名古屋のローカル番組を長く続けていて、そこを活動の拠点にしています。山口さんが東海地方の各地を巡って、地元の人と触れ合ったりするこの番組では、山口さんの素の部分が見られます。地元では驚異的な視聴率を誇る人気番組です」(同前)
他の誰にも真似できないような芸達者ぶりと、地方の番組で愛される人柄の良さ。こうした二つの顔を併せ持つ山口の魅力は、芸能界で生き残ることだけが目的の芸人とは一線を画している。先に触れた『ダウンタウンなう』で彼は、芸人に対するステレオタイプなイメージに比して「僕はけっこう特殊だと思う」と述べつつ、次のような希望を語っていたのだった。
「ライヴハウスとか小さい小屋でめちゃくちゃ面白いことをやってる人はいっぱいいるわけじゃないですか。そういうのをエンターテインメントを見る一般の人たちがもっと幅広く楽しんだら良いのになって思うんですよね」
テレビで見る機会が減ったとしても、“ぐっさん”はこれからも彼にしかできないような一流の芸を披露し続けることだろう。その姿を見つけられるかどうかは、おそらく視聴者がエンターテインメントを幅広く楽しめるかどうかにかかっている。
●取材・文/細田成嗣(HEW)